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呼吸器プライマリケアクリニックでのCOVID-19診療の実際・工夫・展望

解説コラム
呼吸器プライマリケアクリニックでのCOVID-19診療の実際・工夫・展望

取材地:寺田内科・呼吸器科(兵庫県姫路市)2022年11月17日取材
※ 当該記事における肩書き・内容等の記載は、取材時点の情報です

本記事に記載されている製剤のご使用にあたっては各製剤の電子添文をご参照ください。

寺田内科・呼吸器科
院長 寺田 邦彦 先生

目次

COVID-19到来後速やかに発熱外来設置

当院は1980年に先代が開設した呼吸器クリニックで、2019年8月私が継承、現在に至ります。主に急性気道感染や喘息、COPDなど慢性気道疾患管理など、呼吸器領域中心のプライマリ診療を行っています。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)については、2019年末先代逝去後まもなく中国武漢にはじまる世界的流行と2020年1月にダイヤモンド・プリンセス号での大規模クラスターを皮切りとする本邦での大流行を経験することとなりました。当時「未知のウイルス感染症をいかに水際で食い止めるか」に議論が集中、感染症専門医療機関が対応する特殊感染症という扱いでした。したがって、国内での流行を想定してプライマリケア領域でCOVID-19診療を行うことには話が及んでいませんでした。

しかし、ダイヤモンド・プリンセス号での感染状況を目の当たりにし、国内での流行は避けられないと憂慮しました。以上を踏まえて、急性気道感染のフロントラインとなるプライマリケアクリニックにもトリアージでの診療体制(発熱外来)が必要と判断、発熱外来設置を決断しました。2020年2月上旬から駐車場でのトリアージ診療を、3月初旬からトリアージ診療のためコンテナハウスを設置しました。それまで姫路市内でCOVID-19症例の報告はありませんでしたが、設置直後に第一例目を経験、衝撃を受けました。

寺田内科・呼吸器科 院長 寺田邦彦先生

寺田内科・呼吸器科
院長 寺田 邦彦 先生

トリアージのしかたと発熱外来で重症例を見落とさないための工夫

コロナ禍前から、冬季インフルエンザ流行期を中心に急性気道感染症患者さんの多いクリニックでしたので、院内感染対策に留意しておりました。特に急性気道感染症患者さんとウイルス感染が増悪リスクとなる慢性気道病変で定期受診されている患者さんとの動線分離をすることに苦慮していました。今回COVID-19を経験し既存の建物を改修することとし、2回にわたって増改築を行いました。
既報にあるとおりCOVID-19は発症前から感染性があり、自覚症状のない方もあることから完璧なトリアージは不可能なことは事実ですが、院内感染対策のため可能な限り動線分離を行うことが望ましいと考えます。現在当院では、①通常診療ゾーン=周囲への感染性がない方、②グレーゾーン=周囲への感染性は低いが医師が判断するまで①と分離した方が良いと考える方、③トリアージ診療ゾーン=COVID-19をはじめ周囲への感染性が高い方の3つに動線を分離しています。

周囲への感染の可能性が高い患者さん(③)については、極力診察順番直前まで自宅か自家用車内で待機、自家用車内かクリニック建物に外付けしたバルコニー部分で診察しています。しかし、天候によりバルコニー部分での診察が難しい場合や容態不良で血液検査、胸部単純X線やCTなど精査、補液など処置が必要な方(地域医療崩壊のため自宅療養を強いられている状況など)は、2021年9月に増設したクリニック正面玄関横の第2待合兼診察室を使用しています(写真1)。
次に、②グレーゾーン=周囲への感染性は低いが①と分離した方が良いと考える対象は、発熱を認めない1週間以内の呼吸器症状(いわゆる感冒症状)や、COVID-19自宅隔離解除後であるが発熱、呼吸器症状が改善していない患者さんなどです。この方々には、2022年9~10月に増設したスペース「グレーゾーン」(写真2)でまず対応させて頂いています。このスペースには隔離ブース毎にクリアスクリーンと換気孔を設けて通常診療ゾーン(①)へエアロゾルが拡がらないように工夫しています。このゾーンに分類された方には診察、血液検査で異型リンパ球増加などの所見からCOVID-19と診断される方がいる一方、肺炎などウイルス感染に続発する2次性細菌感染、アレルゲン曝露や季節性の(咳)喘息など感染症ではない方も多数混在することから、全員にトリアージ対応を強いるのは不適切と考えています。診察の結果を踏まえてトリアージの要否を判断して①、③に区分しています。

発熱外来で重症例を見落とさないポイントは、COVID-19か否か、即ちSARS-CoV2検査(抗原、PCR)の結果にアンカリングして思考停止に陥らないことです。患者さんの基礎疾患、ルックス(見た目の重症度)の評価と実施可能な範囲でバイタルサイン、身体診察、迅速検査を実施し、自院で診断・治療できるか基幹病院などへ紹介すべきか判断する、日常診療の基本を崩さないように日々自戒しています。

写真1 第2待合兼診察室
身障者対応の洗面・トイレを併設。自家用車内、屋外での対応が困難な場合や精査、補液など処置が必要な状況で使用している。

トリアージ診療ゾーン

グレーゾーン

写真2 「トリアージ診療ゾーン」と増設した「グレーゾーン」への臨時出入口へアプローチするスロープ
従来使用していた通常診療スペース(①)と「トリアージ診療ゾーン(③)」「グレーゾーン(②)」とを完全に動線分離した。「トリアージ診療ゾーン」と「グレーゾーン」とは臨時出入口で分離、感染性の高い方(③)の診察、検体採取は屋外(③)で実施している。

ウィズコロナ時代におけるプライマリケア領域でのCOVID-19診療のありかた

感染者が増加する一方で、新型コロナワクチン接種の普及、抗ウイルス薬の開発、ウイルス変異などが相まって重症化・死亡率が低下したことから、社会は急速にウィズコロナ社会にシフトしています。一方で感染者の指数関数的な増加は、ワクチン未接種や基礎疾患を有する高齢者中心にCOVID-19契機に容態悪化、死亡する症例が増え、医療現場の負担となっています。名実ともにウィズコロナ時代を迎えた今日、プライマリケア領域でのCOVID-19診療はどうあるべきか?
COVID-19が通常感冒、あるいは感冒に準ずる状態で回復できる可能性が高い、新型コロナワクチンを複数回接種の完了した重症化リスクのない方は、発熱など感冒症状を認めた場合COVID-19疑い、あるいは市販の簡易抗原検査でCOVID-19診断の上自主的に自宅療養する社会的コンセンサスを浸透させることが必要です。われわれプライマリケア医の最も大切な役割は、上記を啓蒙・徹底すると共に、ワクチン未接種者や、重症化リスクのあるCOVID-19症例を迅速に診断し、抗ウイルス薬投与などにより病状悪化を未然に防止することと考えます。上記を行っても、地域のCOVID-19病棟がオーバーフローしている感染流行期にあってはトリアージブースや往診で点滴、酸素投与などの対応が求められますが、医療者の感染リスクなども踏まえると、可能な限り回避したいところです。

当院では、COVID-19診断は、ワクチン未接種者、重症化リスクのある症例を対象に、迅速PCR法(アボット社、ID NOWTM、NEAR法)を用いています。上記に該当しない場合、各患者さんにまず市販の簡易抗原検査による判断をお願いし、困難な状況や希望時抗原定性法を用いています。RT-PCR法や委託検査によるPCR検査も選択肢となりますが結果判明まで数時間~1日要し、迅速に抗ウイルス薬投与を行いにくい(一旦帰宅後再度受診いただく必要がある)ため、極力迅速法を用いるようにしています。

既知のとおり、COVID-19が悪化するのは発症後1週間~10日間程度してからであり、抗ウイルス薬が適応となる発症後数日以内ではどの症例で容態悪化を来すか推測することは難しいため、抗ウイルス薬は、重症化リスクとなる持病をもっている方やワクチン未接種の高齢者、病的肥満者等に対しては投与を考慮するようにしています。薬剤選択に関しては、感染力の強い発症早期に医療者の感染リスクを考えると経口薬が望ましく、次に投与時の簡便性と有効性が重要になると考えています。多くのクリニックでは院内迅速検査で腎・肝機能などを把握するのは困難な上に、トリアージ対応をしている発熱患者さんの併用薬を漏らさず確認し、事前登録を行った上で投薬を行うといった複雑なフローは、忙しい臨床現場では難しいのが実情です。

ラゲブリオ®は重症化抑制効果が示されている経口抗ウイルス薬1)であり、腎排泄ではない2)ためeGFRの確認が規定されておらず、電子添文上併用が制限される薬剤がない2)こと、また事前登録が必要ないため使用しやすいと感じています。更に一般流通も開始されたため、発熱外来を設置されていなくても、かかりつけの先生方による処方が容易となりました。ウィズコロナ社会が到来し、プライマリケアに従事する医療者全体でCOVID-19診療を行える時代が到来したといえるかと感じています。

図1 経口抗ウイルス薬投与時のCOVID-19治療のフロー

参考資料
1)承認時評価資料:国際共同第Ⅱ/Ⅲ相試験(MK-4482-002試験第Ⅲ相パート(パート2))
2)ラゲブリオ®電子添文

COVID-19診療の実際・工夫・展望に関するpoint