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開発の経緯

開発の経緯

キイトルーダ®点滴静注100mg(一般名:ペムブロリズマブ[遺伝子組換え]、以下キイトルーダ®)は、PD-1(programmed cell death-1)に結合し、PD-1リガンドであるPD-L1及びPD-L2との結合を直接阻害する、ヒト化IgG4モノクローナル抗体です。
PD-1は、通常、活性型T細胞の細胞表面に発現し、リガンドが結合することにより抗原受容体によるシグナル伝達を負に制御する受容体で、自己免疫反応を含む不必要又は過剰な免疫反応を制御します。PD-1のリガンドであるPD-L1/PD-L2は正常組織にわずかに発現していますが、多くのがん細胞ではT細胞の働きを抑えるほど過剰に発現しており、PD-1-PD-L1/PD-L2経路は、がん細胞がT細胞免疫監視機構から逃れるために利用する主な免疫制御スイッチとなっています。がん細胞におけるPD-L1の高発現は、腎細胞癌、膵臓癌、肝細胞癌、卵巣癌、非小細胞肺癌などの様々ながんで認められ、低い生存率との相関性が報告されており、予後不良因子であることが示唆されています。
複数のがんの臨床的予後とPD-L1発現の相関性から、PD-1-PD-L1/PD-L2の経路は腫瘍の免疫回避において重要な役割を担うことが示唆されており、新たながん治療の標的として期待されています。
キイトルーダ®は、PD-1とPD-L1及びPD-L2の両リガンドの結合を阻害することにより、腫瘍微小環境中の腫瘍特異的細胞傷害性Tリンパ球を活性化させることで抗腫瘍効果を示すと考えられます。これらの知見から本剤の臨床開発が行われ、米国で最初の承認を取得しました。
2023年3月現在、米国及びEUを含む103の国又は地域で承認されています。

【悪性黒色腫】
キイトルーダ®は、2013年4月に米国食品医薬品局(FDA)より進行性悪性黒色腫に対する「Breakthrough therapy(画期的治療薬)」の指定を受け、2014年9月に海外第Ⅰ相試験(KEYNOTE-001試験)の結果に基づき、「イピリムマブ治療後及びBRAF V600遺伝子変異を有する場合はBRAF阻害剤による治療後に疾患進行が認められた切除不能又は転移性の悪性黒色腫」を効能又は効果として迅速承認されました。
本邦においては、MSD株式会社によりキイトルーダ®の臨床試験が実施され、2014年9月17日には「悪性黒色腫」を予定される効能又は効果として希少疾病用医薬品に指定されました[指定番号:(26薬)第350号]。日本人悪性黒色腫患者においてもキイトルーダ®の安全性及び有効性を検討し、国内外の臨床試験の結果をもって承認申請を行い、2016年9月に「根治切除不能な悪性黒色腫」を効能又は効果として製造販売承認を取得しました。
その後に実施された臨床試験の成績及びモデリング&シミュレーションの結果に基づき、悪性黒色腫に対して用法及び用量を1回200mgの固定用量に変更する製造販売承認事項の一部変更申請を行いました。さらに、国際共同第Ⅲ相試験(EORTC-1325-MG/KEYNOTE-054試験)の結果より、完全切除後のステージⅢの悪性黒色腫の術後補助療法における本剤の有効性及び安全性が確認されたことから、製造販売承認事項の一部変更申請を行い、2018年12月に「悪性黒色腫」への効能又は効果変更、用法及び用量変更の承認を取得しました。加えて、完全切除後のステージⅡB又はⅡCの悪性黒色腫患者に対する本剤の術後補助療法の有効性及び安全性を検討する国際共同第Ⅲ相試験(KEYNOTE-716試験)が実施されました。2022年9月に電子添文「17.臨床成績」においてKEYNOTE-716試験を追記しました。

【切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌】
非小細胞肺癌を対象としたキイトルーダ®単独療法の臨床試験
キイトルーダ®は、2014年10月にFDAより「Breakthrough therapy(画期的治療薬)」の指定を受け、2015年10月に海外第Ⅰ相試験(KEYNOTE-001試験)の結果に基づき、「FDAに承認された検査でPD-L1の発現が確認され、プラチナ製剤(及びEGFR遺伝子変異又はALK融合遺伝子陽性の場合はそれらに対する治療薬)による治療後に病勢進行が認められた非小細胞肺癌」を効能又は効果として迅速承認されました。また、2016年10月には「FDAに承認された検査でPD-L1の高発現(腫瘍細胞のうち、PD-L1発現陽性細胞の割合が50%以上)でEGFR遺伝子変異又はALK融合遺伝子陰性の遠隔転移のある非小細胞肺癌に対する1次治療」を効能又は効果として承認されています。
本邦においては、2013年から非小細胞肺癌を含む日本人の固形がん患者を対象に国内第Ⅰ相試験(KEYNOTE-011試験 パートA)が実施され、忍容性が確認されました。また、日本人を含む非小細胞肺癌患者を対象とした国際共同第Ⅱ/Ⅲ相試験(KEYNOTE-010試験)及び国際共同第Ⅲ相試験(KEYNOTE-024試験)、国内後期第Ⅰ相試験(KEYNOTE-025試験)を実施し、2016年12月に「PD-L1陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」の効能又は効果追加の承認を取得しました。さらに、PD-L1発現陽性(腫瘍細胞のうち、PD-L1発現陽性細胞の割合が1%以上)の非小細胞肺癌患者を対象とした国際共同第Ⅲ相試験(KEYNOTE-042試験)を実施しました。

非小細胞肺癌を対象としたキイトルーダ®併用療法の臨床試験
キイトルーダ®、ペメトレキセド及びカルボプラチンの併用療法は、化学療法未治療の進行又は遠隔転移のある非扁平上皮非小細胞肺癌患者を対象とした海外第Ⅰ/Ⅱ相試験(KEYNOTE-021試験)コホートGで得られた奏効率等の結果に基づき、2017年5月に米国でPD-L1の発現状況にかかわらず非扁平上皮癌に対する初回治療として迅速承認を取得しました。
本邦においては、日本人の化学療法未治療の非扁平上皮非小細胞肺癌患者を対象とした国内第Ⅰ相試験(KEYNOTE-011試験 パートB)が実施され、キイトルーダ®、ペメトレキセド及びプラチナ製剤(シスプラチン又はカルボプラチン)の併用療法の忍容性が確認されました。また、日本人を含む化学療法未治療の非扁平上皮非小細胞肺癌患者を対象とした国際共同第Ⅲ相試験(KEYNOTE-189試験)を実施し、キイトルーダ®、ペメトレキセド及びプラチナ製剤(シスプラチン又はカルボプラチン)の併用療法について、PD-L1の発現状況にかかわらず遠隔転移のある非扁平上皮非小細胞肺癌に対する初回治療の適応拡大として申請を行いました。
さらに、日本人の化学療法未治療の扁平上皮非小細胞肺癌患者を対象とした国内第Ⅰ相試験(KEYNOTE-011試験 パートC)も実施され、キイトルーダ®、パクリタキセル又はパクリタキセル(アルブミン懸濁型)(nab-パクリタキセル)及びカルボプラチンの併用療法の忍容性も確認されました。また、日本人を含む化学療法未治療の扁平上皮非小細胞肺癌患者を対象とした国際共同第Ⅲ相試験(KEYNOTE-407試験)を実施し、キイトルーダ®、パクリタキセル又はnab-パクリタキセル及びカルボプラチンの併用療法について、PD-L1の発現状況にかかわらず遠隔転移のある扁平上皮非小細胞肺癌に対する初回治療の適応拡大として申請を行いました。
KEYNOTE-189試験、 KEYNOTE-407試験、 KEYNOTE-042試験をもとに、2018年12月に「切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」の効能又は効果の一部変更の承認を取得しました。

【再発又は難治性の古典的ホジキンリンパ腫】
ホジキンリンパ腫に対する臨床開発は、2013年12月に米国にて開始され、造血器腫瘍患者を対象とした海外後期第Ⅰ相試験(KEYNOTE-013試験)により、再発又は難治性の結節硬化型/混合細胞型ホジキンリンパ腫患者におけるキイトルーダ®の忍容性、及び有効性を検討しました。その後、有効性及び安全性を検討する目的で、再発又は難治性の古典的ホジキンリンパ腫患者を対象とした日本人を含む国際共同第Ⅱ相試験(KEYNOTE-087試験)が実施されました。
海外後期第Ⅰ相試験(KEYNOTE-013試験)、国際共同第Ⅱ相試験(KEYNOTE-087試験)の成績に基づき、2016年4月にFDAより「Breakthrough therapy」の指定を受けました。米国では2017年3月に「難治性又は3レジメン以上の治療後に再発した成人及び小児古典的ホジキンリンパ腫の治療」の効能又は効果として迅速承認されました。
本邦においては、2017年11月に「再発又は難治性の古典的ホジキンリンパ腫」の効能又は効果追加の承認を取得しました。
加えて、「1レジメン以上の化学療法歴を有する再発又は難治性の古典的ホジキンリンパ腫患者」に対する本剤の有効性及び安全性を検討する国際共同第Ⅲ相試験(KEYNOTE-204試験)が実施されました。2023年6月に電子添文「17.臨床成績」においてKEYNOTE-204試験を追記しました。

【がん化学療法後に増悪した根治切除不能な尿路上皮癌】
尿路上皮癌では、PD-L1発現陽性の尿路上皮癌を対象とした海外後期第Ⅰ相試験(KEYNOTE-012試験)のコホートC において、キイトルーダ®が局所進行性又は転移性の尿路上皮癌に対する安全性を検討後、複数の臨床試験が計画・実施されました。米国では、プラチナ製剤併用化学療法後に再発又は進行した局所進行性又は転移性の尿路上皮癌患者を対象とした国際共同第Ⅲ相試験(KEYNOTE-045試験)成績を主要な試験成績とする申請データパッケージに基づき、FDAより「Breakthrough therapy」の指定を受け、2017年5月に適応追加承認されました。同時に、シスプラチン不耐容で化学療法未治療患者を対象とした第Ⅱ相試験(KEYNOTE-052試験)の成績に基づき、「シスプラチンを含む化学療法に不耐容な局所進行性又は転移性の尿路上皮癌患者に対する1次治療」の追加承認を取得しました。
本邦においては、KEYNOTE-012試験及びKEYNOTE-045試験の成績に基づき承認申請を行い、厚生労働省より優先審査の指定を受け、2017年12月に「がん化学療法後に増悪した根治切除不能な尿路上皮癌」の効能又は効果追加の承認を取得しました。

【がん化学療法後に増悪した進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形癌(標準的な治療が困難な場合に限る)注)
高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形癌に対しては、フッ化ピリミジン系抗悪性腫瘍剤、オキサリプラチン及びイリノテカンによる化学療法歴のある切除不能な局所進行・再発のミスマッチ修復(MMR)欠損又はMSI-Highを有する結腸・直腸癌を対象とした国際共同第Ⅱ相試験(KEYNOTE-164試験 コホートA)及び一次治療として標準的な化学療法歴のある治癒切除不能な局所進行又は転移性のMMR欠損又はMSI-Highを有する固形癌を対象とした国際共同第Ⅱ相試験(KEYNOTE-158試験)が計画・実施されました。
これらを含む複数の試験の成績に基づき、米国ではFDAより「Breakthrough therapy」の指定を受け、2017年5月に前治療が無効で他に治療選択肢がないMSI-High癌に対して承認されました。
本邦においては、日本人集団を含むKEYNOTE-164試験 コホートA及びKEYNOTE-158試験の成績に基づき、承認申請を行い、2018年12月に「がん化学療法後に増悪した進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形癌(標準的な治療が困難な場合に限る) 」の効能又は効果追加の承認を取得しました。

注)条件付き早期承認制度の適用対象(平成30年6月22日付け薬生薬審発0622第2号)

【根治切除不能又は転移性の腎細胞癌】
根治切除不能又は転移性の腎細胞癌では、キイトルーダ®+アキシチニブ併用について、未治療の進行性腎細胞癌患者を対象とした海外後期第Ⅰ相試験(A4061079/KEYNOTE-035試験)で、安全性について検討しました。この結果を踏まえて、未治療の局所進行性又は転移性腎細胞癌(淡明細胞型)患者を対象とした国際共同第Ⅲ相試験(KEYNOTE-426試験)において、キイトルーダ®+アキシチニブ併用群とスニチニブ群の有効性及び安全性について比較検討しました。海外における腎細胞癌に対する適応追加申請は、KEYNOTE-426試験を主要な臨床成績とする申請データパッケージとして、米国では2018年12月、EUでは2019年1月に行われました。なお、米国ではFDAよりBreakthrough therapy(画期的治療薬)の指定を受けて2019年4月、EUでは2019年9月に効能又は効果追加の承認を取得しました。
本邦においても、KEYNOTE-426試験の成績に基づき承認申請を行い、2019年12月にキイトルーダ®+アキシチニブ併用は「根治切除不能又は転移性の腎細胞癌」の効能又は効果追加の承認を取得しました。
また、キイトルーダ®+レンバチニブ併用について、固形癌患者を対象とした海外後期第Ⅰ相/第Ⅱ相試験(KEYNOTE-146/E7080-111試験)の後期第Ⅰ相パートにおいて、キイトルーダ®併用時のレンバチニブの最大耐量及び推奨用量、日本人の固形癌患者を対象とした国内後期第Ⅰ相試験(KEYNOTE-523/E7080-115試験)において、キイトルーダ®+レンバチニブ併用の忍容性及び安全性について検討しました。海外ではKEYNOTE-146/E7080-111試験、本邦ではKEYNOTE-146/E7080-111試験、KEYNOTE-523/E7080-115試験の結果を踏まえて実施された、化学療法未治療の根治切除不能又は転移性腎細胞癌(淡明細胞型)患者を対象とした国際共同第Ⅲ相試験[CLEAR試験(KEYNOTE-581/E7080-307試験)]において、キイトルーダ®+レンバチニブ併用群とスニチニブ群の有効性及び安全性について比較検討しました。海外における腎細胞癌に対するキイトルーダ®+レンバチニブ併用の承認状況として、米国では2021年8月、EUでは2021年11月に承認を取得しました。
本邦において、KEYNOTE-146/E7080-111試験、KEYNOTE-523/E7080-115試験、CLEAR試験(KEYNOTE-581/E7080-307試験)の3試験を評価資料として承認申請を行い、2022年2月にキイトルーダ®+レンバチニブ併用についても「根治切除不能又は転移性の腎細胞癌」の効能又は効果で承認を取得しました。

【腎細胞癌における術後補助療法】
腎細胞癌における術後補助療法に対しては、腎摘除術又は腎部分切除術後の腎細胞癌患者を対象に、術後補助療法として本剤を単独投与した際の有効性及び安全性を評価する国際共同第Ⅲ相試験(KEYNOTE-564試験)が行われました。米国及びEUでは、本試験の結果に基づき腎細胞癌の術後補助療法に対する承認申請を行い、米国では2021年11月に、EUでは2022年1月に承認を取得しました。
本邦では日本人集団を含むKEYNOTE-564試験を評価資料として製造販売承認事項の一部変更承認申請を行い、2022年8月に、「腎細胞癌における術後補助療法」の効能又は効果の承認を取得しました。

【再発又は遠隔転移を有する頭頸部癌】
再発又は遠隔転移を有する頭頸部癌に対しては2013年5月に開始された国際共同後期第Ⅰ相試験(KEYNOTE-012試験)のコホートB及びコホートB2において、キイトルーダ®単独療法による抗腫瘍効果が認められたことから、複数の臨床試験が計画、実施されました。
米国ではプラチナ製剤及びセツキシマブ投与後に疾患進行した複数の治療歴があり再発又は遠隔転移を有する頭頸部癌患者を対象とした海外第Ⅱ相試験(KEYNOTE-055試験)で、キイトルーダ®単独療法による有効性が再確認されたことから、2016年8月にプラチナ製剤を含む化学療法による治療歴があり再発又は遠隔転移を有する頭頸部癌に対してFDAより迅速承認を取得しました。また、その後実施されたプラチナ製剤を含む前治療歴が1回又は2回ある再発又は遠隔転移を有する頭頸部癌患者を対象とした海外第Ⅲ相試験(KEYNOTE-040試験)では、キイトルーダ®単独療法による有効性及び安全性が検討されました。これら3試験の結果に基づき、EUでは2018年9月にプラチナ製剤を含む化学療法による治療歴があり再発又は遠隔転移を有する頭頸部癌(PD-L1Tumor Proportion Score;TPS 50%以上発現例)に対して承認を取得しました。
再発又は遠隔転移を有する頭頸部癌患者に対する1次治療について検討した国際共同第Ⅲ相試験(KEYNOTE-048試験)では、キイトルーダ®単独療法及びキイトルーダ®と化学療法による併用療法の有効性及び安全性を、標準治療であるセツキシマブ、プラチナ製剤及び5-FU併用療法(EXTREMEレジメン)と比較検討する目的で実施されました。その結果、キイトルーダ®単独療法及びキイトルーダ®併用療法にてその有用性が認められたことから、米国では2019年6月に、また、EUでは2019年11月に再発又は遠隔転移を有する頭頸部癌に対する1次治療として承認を取得しました。
本邦では日本人集団を含むKEYNOTE-012試験及びKEYNOTE-048試験の成績に基づき、2019年12月に「再発又は遠隔転移を有する頭頸部癌」の効能又は効果追加承認を取得しました。

【根治切除不能な進行・再発の食道癌】
キイトルーダ®単独療法の臨床試験
PD-L1発現陽性の切除不能進行・再発食道扁平上皮癌及び食道腺癌(食道胃接合部腺癌含む)を対象とした国際共同後期第Ⅰ相試験(KEYNOTE-028試験)のコホートA4において、キイトルーダ®の忍容性が確認されたことから、複数の臨床試験が計画・実施されました。
2次治療後に疾患進行が認められた切除不能進行・再発食道扁平上皮癌及び食道腺癌(Siewert分類type Ⅰ食道胃接合部腺癌含む)患者を対象とした国際共同第Ⅱ相試験(KEYNOTE-180試験)及び1次治療として全身治療歴のある切除不能進行・再発食道扁平上皮癌及び食道腺癌(Siewert分類type Ⅰ食道胃接合部腺癌含む)患者を対象とした国際共同第Ⅲ相試験(KEYNOTE-181試験)が行われました。なお、KEYNOTE-181試験の主要評価項目はPD-L1発現陽性(combined positive score:CPS≧10)の患者、食道扁平上皮癌(ESCC)患者、ITT集団における全生存期間(OS)でした。米国では、これらの成績に基づき、2019年7月に「1回以上の全身療法後に疾患進行が認められ、FDAが承認した診断薬により腫瘍細胞にPD-L1発現陽性[CPS≧10]が確認された局所進行再発又は転移性食道扁平上皮癌」を効能又は効果として承認されました。​
本邦においても、KEYNOTE-180試験及びKEYNOTE-181試験の成績に基づき、2020年8月に「がん化学療法後に増悪したPD-L1陽性の根治切除不能な進行・再発の食道扁平上皮癌」の効能又は効果追加の承認を取得しました。

キイトルーダ®化学療法併用の臨床試験
キイトルーダ®と化学療法(5-FU及びシスプラチン)の併用療法は、根治切除不能な進行・再発の食道癌患者及びSiewert分類type Ⅰ食道胃接合部腺癌患者を対象とした国際共同第Ⅲ相試験(KEYNOTE-590試験)において、1次治療に対する有効性及び安全性が評価されました。
KEYNOTE-590試験の成績に基づき、米国及びEUでは食道癌に対する1次治療として本剤と化学療法(5-FU及びシスプラチン)併用療法の適応追加申請を行い、米国では2021年3月に「根治切除不能な進行・再発の食道癌」に対して、EUでは2021年6月に「PD-L1発現陽性[CPS≧10]が確認された切除不能な進行・転移性の食道癌又はHER2陰性の食道胃接合部腺癌」に対して効能又は効果追加の承認を取得しました。
本邦においては、KEYNOTE-590試験の成績に基づき、2020年11月に承認申請を行い、2021年11月に、PD-L1陽性の根治切除不能な進行・再発の食道扁平上皮癌患者に対する2次治療および根治切除不能な進行・再発の食道癌患者に対する1次治療が統合した効能又は効果「根治切除不能な進行・再発の食道癌」として一部変更の承認を取得しました。

【治癒切除不能な進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する結腸・直腸癌 】
ミスマッチ修復(MMR)欠損又はMSI-Highを有する結腸・直腸癌に対しては、未治療のMMR欠損又はMSI-Highを有する結腸・直腸癌患者を対象とした国際共同第Ⅲ相試験(KEYNOTE-177試験)及びフッ化ピリミジン系抗悪性腫瘍剤及びオキサリプラチン若しくはフッ化ピリミジン系抗悪性腫瘍剤及びイリノテカンのいずれか、又はそのいずれかに抗血管内皮増殖因子(VEGF)若しくは抗上皮成長因子受容体(EGFR)モノクロナール抗体を加えたレジメンによる全身性の治療歴のあるMMR欠損又はMSI-Highを有する結腸・直腸癌患者を対象とした国際共同第Ⅱ相試験(KEYNOTE-164試験 コホートB)が実施されました。​
KEYNOTE-177試験の成績に基づき、米国及びEUでは、MMR欠損又はMSI-Highを有する結腸・直腸癌(Ⅳ期)に対する一次治療として本剤単独療法の適応追加申請を行い、米国では2020年6月に、EUでは2021年1月に承認を取得しました。​
本邦においては、KEYNOTE-177試験並びにKEYNOTE-164試験 コホートBを評価資料として、2020年9月に「治癒切除不能な進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する結腸・直腸癌」の承認申請を行い、2021年8月に承認を取得しました

*2018年12月には、「がん化学療法後に増悪した進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形癌(標準的な治療が困難な場合に限る)注)」の適応を取得しています。
注)条件付き早期承認対象

【PD-L1 陽性のホルモン受容体陰性かつ HER2 陰性の手術不能又は再発乳癌】
ホルモン受容体陰性かつヒト上皮成長因子受容体2型(HER2)陰性の乳癌(以下、トリプルネガティブ乳癌)に対しては、2013年5月よりキイトルーダ®単独投与の国際共同後期第Ⅰ相試験が行われました(KEYNOTE-012試験)。国際共同第Ⅱ相試験(KEYNOTE-086試験)以降、日本人患者の登録を開始し、第Ⅱ相試験と並行してトリプルネガティブ乳癌の2次治療又は3次治療を対象とした国際共同第Ⅲ相試験(KEYNOTE-119試験)が行われました。KEYNOTE-119試験では対照群の化学療法と比較し、キイトルーダ®の単独投与は主要評価項目として設定した全生存期間(OS)の優越性を示すことはできませんでした。
一方、化学療法との併用に関する前臨床試験をもとに、転移・再発乳癌に対する全身性の前治療歴のない、切除不能な転移・再発又は局所進行性のトリプルネガティブ乳癌患者を対象に、化学療法(ゲムシタビン及びカルボプラチン、パクリタキセル又はnab-パクリタキセル)にキイトルーダ®を併用した際の有効性及び安全性を評価した国際共同第Ⅲ相試験(KEYNOTE-355試験)が実施されました。本試験の成績にもとづき、米国ではFDAが承認した診断薬によりPD-L1発現陽性[Combined Positive Score: CPS≧10]が確認された切除不能な局所再発又は転移性のトリプルネガティブ乳癌に対して化学療法との併用にて適応追加申請を行い、2020年11月に承認を取得しました。
本邦では日本人集団を含むKEYNOTE-355試験を評価資料として申請を行い、2021年8月に「PD-L1陽性のホルモン受容体陰性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌」の効能又は効果の承認を取得しました。

【ホルモン受容体陰性かつHER2陰性で再発高リスクの乳癌における術前・術後薬物療法】
ホルモン受容体陰性かつHER2陰性で再発高リスク(術前薬物療法を開始する前に、画像診断又は臨床診断によりTNM分類でT1cかつN1~2、又はT2~4かつN0~2に該当する遠隔転移を有しない)の周術期の乳癌患者を対象に、術前薬物療法として本剤を化学療法(パクリタキセル+カルボプラチンを4コース、その後ドキソルビシン又はエピルビシン+シクロホスファミドを4コース)と併用投与、及び術後薬物療法として本剤を単独投与した際の有効性及び安全性を検討する目的で国際共同第Ⅲ相試験(KEYNOTE-522試験)が行われました。
KEYNOTE-522試験の成績に基づき、米国及びEUでは術前及び術後薬物療法にかかる適応追加申請を行い、米国では2021年7月に、EUでは2022年5月に承認を取得しました。
本邦では日本人集団を含むKEYNOTE-522試験を評価資料として製造販売承認事項の一部変更申請を行い、2022年9月に、「ホルモン受容体陰性かつHER2陰性で再発高リスクの乳癌における術前・術後薬物療法」の効能又は効果及び「1回200mgを3週間間隔又は1回400mgを6週間間隔で30分間かけて点滴静注する。投与回数は、3週間間隔投与の場合、術前薬物療法は8回まで、術後薬物療法は9回まで、6週間間隔投与の場合、術前薬物療法は4回まで、術後薬物療法は5回までとする。」の用法及び用量の承認を取得しました。

【がん化学療法後に増悪した切除不能な進行・再発の子宮体癌】
がん化学療法後に増悪した切除不能な進行・再発の子宮体癌に対しては、遠隔転移を有する固形がん患者を対象とした海外後期第Ⅰ/Ⅱ相試験(KEYNOTE-146/E7080-111試験)において、子宮体癌患者に対するキイトルーダ®200mg 3週間間隔投与とレンバチニブ20mg 1日1回投与の併用療法の有効性及び安全性を検討しました。KEYNOTE-146/E7080-111試験の結果に基づき、2018年7月にFDAによりBreakthroughtherapy(画期的治療薬)の指定を受け、2019年9月に「全身療法後に増悪した根治的手術又は放射線療法に不適応なMSI-High又はミスマッチ修復機構欠損(mismatch repair deficient:dMMR)を有さない進行子宮体癌」を効能又は効果として迅速承認されました。その後、プラチナ製剤を含む化学療法歴のある進行・再発の子宮体癌患者を対象に、キイトルーダ®とレンバチニブの併用療法の有効性及び安全性を確認する目的で行われた国際共同第Ⅲ相試験(KEYNOTE-775/E7080-309試験)の結果をもとに、2021年7月に「治療ラインにかかわらず、全身療法後に増悪した根治的手術又は放射線療法に不適応なMSI-High又はdMMRを有さない進行子宮体癌」を効能又は効果として、米国で正式承認されました。
本邦では、特定の固形がん患者を対象とした国内後期第Ⅰ相試験(KEYNOTE-523/E7080-115試験)により、日本人患者でのキイトルーダ®とレンバチニブの併用療法の安全性及び忍容性を検討しました。その後、国際共同第Ⅲ相試験(KEYNOTE-775/E7080-309試験)へ日本からも参加しました。これらの試験結果から、KEYNOTE-146/E7080-111試験、KEYNOTE-523/E7080-115試験及びKEYNOTE-775/E7080-309試験を評価資料として承認申請を行い、2021年12月に「がん化学療法後に増悪した切除不能な進行・再発の子宮体癌」の効能又は効果の承認を取得しました。
なお、キイトルーダ®は2021年3月11日に、厚生労働大臣より「子宮体癌」を予定される効能又は効果として希少疾病用医薬品に指定されました[指定番号:(R3薬)第512号]。

*非小細胞肺癌、腎細胞癌、子宮体癌、尿路上皮癌、頭頸部扁平上皮癌又は悪性黒色腫

【がん化学療法後に増悪した高い腫瘍遺伝子変異量(TMB-High)を有する進行・再発の固形癌(標準的な治療が困難な場合に限る)】
高い腫瘍遺伝子変異量(TMB-High)を有する固形癌では、化学療法歴のある進行・再発の固形癌患者を対象に実施された国際共同第Ⅱ相試験(KEYNOTE-158試験)において、事前規定されていた探索的バイオマーカーである腫瘍遺伝子変異量(TMB)をFoundationOne® CDx がんゲノムプロファイルにより測定し、TMB-Highを有する集団に対するキイトルーダ®の有効性及び安全性を解析計画に従って評価しました。
また、キイトルーダ®単独療法が二次治療又はそれ以降の治療で実施された12の国際共同試験/海外臨床試験において、Whole exome sequencing(WES)で得られたTMBスコアに基づき有効性データを併合し、解析計画に従って、TMB-Highを有する集団に対するキイトルーダ®の有効性を評価しました。
米国では、KEYNOTE-158試験の中間解析結果、及びWES併合解析の結果に基づき、2020年4月に優先審査指定を受け、2020年6月に「前治療後に進行し、他に十分な治療選択肢のない腫瘍遺伝子変異量高値(TMB-High、FDAに承認された検査において10mut/Mb以上)の切除不能又は転移を有する固形がんの成人及び小児患者に対するKEYTRUDA®単独療法」を適応として迅速承認されました。
本邦では、KEYNOTE-158試験の成績に基づき、2021年3月に承認申請を行い、2022年2月に「がん化学療法後に増悪した高い腫瘍遺伝子変異量(TMB-High)を有する進行・再発の固形癌(標準的な治療が困難な場合に限る)」の効能又は効果追加の承認を取得しました。

* 一次治療として標準的に実施されている化学療法並びに日常診療で用いられている手術及び放射線療法を含む治療に抵抗性又は不耐容の患者を組み入れることとされた

【進行又は再発の子宮頸癌】
進行又は再発の子宮頸癌に対しては、化学療法を併用した前臨床試験の結果を根拠に、根治的治療の適応がなく、化学療法歴のない(化学放射線療法としての投与歴は除く)進行又は再発の子宮頸癌患者を対象に、本剤と他の抗悪性腫瘍剤[パクリタキセル及びプラチナ製剤(シスプラチン又はカルボプラチン) ±ベバシズマブ]との併用療法 の有効性及び安全性を検討する目的で国際共同第Ⅲ相試験(KEYNOTE-826試験)が実施されました。
KEYNOTE-826試験の成績に基づき、米国及びEUでは、PD-L1発現陽性[Combined Positive Score:CPS≧1]が確認された進行又は再発の子宮頸癌への一次治療としての本剤と抗悪性腫瘍剤との併用療法の適応追加申請を行い、米国では2021年10月に、EUでは2022年4月に承認を取得しました。
本邦では日本人集団を含むKEYNOTE-826試験を評価資料として承認申請を行い、2022年9月に「進行又は再発の子宮頸癌」の効能又は効果の承認を取得しました。

【再発又は難治性の原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫】
再発又は難治性の原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫(rrPMBCL)に対しては、再発又は難治性の造血器悪性腫瘍患者を対象に本剤単独療法の安全性及び有効性を評価するための海外後期第Ⅰ相試験(KEYNOTE-013試験)が実施され、その予備的な結果から、rrPMBCL及び再発又は難治性のリヒター症候群患者を対象とした本剤の有効性及び安全性を評価するための海外第Ⅱ相試験(KEYNOTE-170試験)が実施されました。
KEYNOTE-170試験rrPMBCLコホートの結果に基づき、米国では、難治性又は2種類以上の前治療後に再発が認められた成人及び小児のrrPMBCL患者に対する治療法として2018年6月に迅速承認され、2020年10月に正式承認されました。
本邦では、日本人rrPMBCL患者を対象として、本剤の有効性及び安全性を検討する目的で国内第Ⅰ相試験(KEYNOTE-A33試験)が実施されました。以上の試験結果から、KEYNOTE-170試験及びKEYNOTE-A33試験を評価資料、KEYNOTE-013試験(コホート4A)を参考資料として承認申請を行い、2023年6月に「再発又は難治性の原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫」の効能又は効果の承認を取得しました。
なお、本剤は2022年12月9日に「原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫」を予定される効能又は効果として希少疾病用医薬品に指定されました[指定番号:(R4薬)第549号]。

【400mg 6週間間隔投与の用法及び用量の追加】
キイトルーダ®400mgの6週間間隔投与の用法及び用量の追加について、悪性黒色腫、非小細胞肺癌、頭頸部扁平上皮癌、古典的ホジキンリンパ腫、尿路上皮癌、MSI-High癌、腎細胞癌及び食道癌、その他本邦未承認の適応患者を対象とした臨床試験から得られたデータを用いて薬物動態シミュレーション及び本剤の曝露量と有効性又は安全性の関係に基づき検討しました。この結果、200mgの3週間間隔投与と400mgの6週間間隔投与との間で有効性及び安全性において、明確な差異はないと予測されました。この結果から、EUでは2019年3月に単独療法における承認を取得し、米国では2020年4月に、成人の全適応における承認を取得しました。
本邦においては、キイトルーダ®400mgの6週間間隔投与の用法及び用量の追加に係る製造販売承認事項の一部変更承認申請を行い、2020年8月に「1回200mgを3週間間隔又は1回400mgを6週間間隔で30分間かけて点滴静注する。」の承認を取得しました。

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