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麻酔科学の歴史 ORIGIN OF ANESTHESIA

EPISODE OF ANESTHESIA

麻酔科の歴史において、偉業を成し遂げた人々にスポットを当て、その生涯や功績をドラマチックに紹介します。


麻酔器発達史〔4〕
麻酔ガスを正確に送り出す「流量計」。
患者のバイタルサインをチェックする「モニター」

DEVELOPMENTAL HISTORY OF ANESTHESIA EQUIPMENT AND SYSTEM

麻酔ガスの流量を正確に制御する「流量計」。誕生する前の19世紀には、「ガス減圧弁」が代替品として使用されていた。しかし、より高い精度が求められるようになったことから、1912年、アメリカのフレデリック・ジェイ・コットン(Frederic J.Cotton)とウォルター・ブースビー(Walter Boothby)が、水を入れたボトル内に麻酔ガスを通過させてガスの流量・比率を測定する「気泡型流量計」を開発。現在、流量の測定は、アナログ式も残されているが、麻酔機器を制御するパーソナルコンピュータのモニターで監視することも可能になっている。

※正確な値が読み取りにくい目盛り(フロート式流量計)から一目瞭然のデジタルへ。写真(右)は流量を管理する気体用流量センサ


液体や気体の流れる量を測る「流量計」

 現代の麻酔器は、大きく酸素・亜酸化窒素(笑気)を混ぜた麻酔用のガスを作る「ガス供給部」と、そのガスを患者に送り出す「呼吸回路部」の2つから構成されている。ちなみに、患者の吐き出す呼気に含まれる二酸化炭素は、その吸収装置である「カニスタ(キャニスター)」の中を通る際に除去され、酸素や麻酔ガスは再利用されるようになった。
 現在、麻酔を行う際に使用される酸素、亜酸化窒素(笑気)、空気は、高圧ボンベなどに高圧で圧縮して液化状態で貯えられている。高圧状態になっているガスを大気圧に減圧して、的確に患者に投与するため、特定のガスの流れる量を測定する器具「流量計」が開発された。
 流量計は麻酔器のガス共通流出口に装着されており、酸素ボンベや亜酸化窒素(笑気)ボンベなどから排出されたガスの量を測る。昔から使用されてきた流量計は、流量調節弁が透明になっているガラス製で、先が細い流量計(ソープ[Thorpe]チューブ)に流れ込むガスを目盛りで読み取り、流量計で測定されたガスは、その後、気化器に送られる。  流量計は、1772年、ジョゼフ・プリーストリー(Joseph Priestley)が、亜酸化窒素(笑気)を製造したことがきっかけに誕生した。当時、亜酸化窒素(笑気)は麻酔ガスとして使用されていたが、エーテルやクロロホルムに比べると麻酔作用が弱かったことなどから、一時、ほとんど使用されなくなっていた。しかし、亜酸化窒素(笑気)には使い勝手の良さなどの利点があったため、麻酔の現場からの要望で、1880年代に金属ボンベに高圧で液化保存できるようになったことが契機となり、再び使用されるようになった。ボンベにはガスが高圧な状態で保存されていることから、正確な流量の制御機器が必要となり、流量計が考えられた。


「減圧弁」から始まった流量計の歴史

 19世紀における初期の麻酔器では、ガスの圧や流量を調整するために、絞り効果によって圧力喪失を与える仕組みの「減圧弁」が使用されていた。だが減圧弁は、ある場所を『絞る』(狭くする)ことで減圧するという、単純な仕組みなこともあり微妙な流量の調整が難しかった。
 その頃、医療用ではないが、1889年にハインリッヒ・ドレーゲル(Heinrich Dräger)とその息子が、ビール製造において、少しの違いで味を変える液化二酸化炭素を制御する方法として、少量のガス流量であっても対応可能な軽量の減圧弁を開発した。そのシステムが医療用の機器に転用され、麻酔機器専用の減圧弁が開発された。
 その後、1912年にアメリカのフレデリック・ジェイ・コットンとウォルター・ブースビーが、水を満たしたボトルに麻酔ガスを通すことで発生する気泡を見てガスの流量や比率を知ることができる「気泡型流量計」を作り出した。その方式は、「現代麻酔の父」とも呼ばれるアメリカのジェームズ・テイロー・グワスミー(James Tayloe Gwathmey)などに受け継がれて、さらに新しい流量計が生み出された。
 ただし気泡型流量計は、その後に開発されたボビン型流量計と共に、低流量のガスは確認しにくいなどの欠点があった。そこで、より正確で耐久性があるロタメーター式流量計が開発され、広く使用されるようになった。
 ロタメーター式流量計は、食品や薬液の流量を図るためにドイツで開発されたものだが、1910年、ドイツのマクシミリアン・ノイ(Maximilian Neu)が麻酔器に用いた際に、その有用性が認められ、20年代に入ると世界各地で使われるようになった。
 その後、開発された主なガス流量計としては、「水流量計」や「ハイドブリンク(Heindbrink)メーター」、「コーネル(Connell)メーター」、「圧力計型流量計」などがある。


現代の流量計

 流量計は、その名の通りに『流れるもの』ならば液体でも気体でも計測することができる機器。物の流量を測る方法は色々あることから、流量計も多種多様なものが開発されてきた。
 現代の流量計としては、ファラデーの電磁誘導を利用して流量を測る「電磁式」をはじめ、1912年にカルマンによって証明された法則を利用した「カルマン渦式」、水車構造と風車構造の2種類がある「羽根車式」、テーパ管の中に浮かせたフロート(浮子)の動きで測る「浮き子式」などがある。
 これだけ多くの種類の流量計が開発されたのは、測るものが気体か液体かなど、その種類によって、どういう流量計を使えばいいか、それぞれが異なるためで、近年は、アナログ式以外にも、電子化されてモニターで監視ができるものもある。


患者モニター

 全身麻酔中においては、患者がどういう状況であるかを各種のモニターに表示し、安全を確認する。そうしたモニターの中で、麻酔中、主に使われるのが患者のバイタルサインをチェックする「患者モニター(patient monitor)」だ。
 現在、麻酔中に使用されている主なモニターとしては、吸気・呼気中の吸入麻酔薬の濃度計、血液中の酸素量をモニターする「経皮的動脈血酸素飽和度モニター」をはじめ、人工呼吸の状態をモニターする「呼気終末二酸化炭素濃度モニター」や、脳波を測定するBISモニター(脳波計)、血圧を測る「血圧測定」(数分ごとに血圧測定を行う)、「心電図」、「体温測定」などがあり、それぞれが麻酔中の患者の安全を見守ってきた。


最後に

 本シリーズではEPISODE18から今号まで5回に亘って、日々現場で使用されている様々な麻酔機器の進化を紹介してきたが、麻酔法の進歩と共に麻酔機器も変化を遂げてきたことが分かる。特に近年は、アナログからデジタルへの移行により精度が高まる一方、どのようにして麻酔中の患者の状態を把握し安全に配慮するかという視点が、より明確にされてきたと言える。患者の大切な命を守るために、安全性向上をめざした麻酔機器の進化はこれからも続いて行くだろう。


〈参考文献〉
・『麻酔の歴史』(松木明知監訳 克誠堂出版)〈1998年〉
・『麻酔器』(釘宮豊城著 克誠堂出版)〈2009年〉
・『ミラー麻酔科学 SIXTH EDITION』(Ronald D.Miller著 武田純三監修/メディカル・サイエンス・インターナショナル)〈2007年〉
・『麻酔器・麻酔回路』(岩崎寛 文光堂)〈2006年〉
・『完全版 流量の教科書』(キーエンス)〈2019年〉
・浜松医科大学「麻酔の歴史」HP(http://www.anesth.hama-med.ac.jp/Anedepartment/masuinorekishi.asp)
・九州医療センターHP(http://www.kyumed.jp/guide/clinical/masuika.html?mode=topics&id=90&sess=2)
・ウッドライブラリーミュージアム(https://www.woodlibrarymuseum.org/museum/item/76/cotton-&-boothby-apparatus)

〈取材・写真提供協力〉
・株式会社キーエンス
・麻酔博物館


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