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episode21

麻酔科学の歴史 ORIGIN OF ANESTHESIA

EPISODE OF ANESTHESIA

麻酔科の歴史において、偉業を成し遂げた人々にスポットを当て、その生涯や功績をドラマチックに紹介します。


麻酔器発達史〔3〕
現代の麻酔法に欠かせない「吸入麻酔器」

DEVELOPMENTAL HISTORY OF ANESTHESIA EQUIPMENT AND SYSTEM

全身麻酔に使用される「吸入麻酔器」だが、1950年以降は、欧米の機器が使用されていた。その後、ようやく1975年に現在も使用されている人工呼吸器と組み合わせた麻酔器が開発された。
一方、麻酔用のガスとして用いられている酸素と麻酔ガスの混合ガスを正確に送り出すために、ガスが大気圧の近くまで減圧されているかを計測する「圧力計」は、それが開発された頃から基本的に構造は変わっていない。だが、より安全性を高めるための工夫など、常に改良は進められてきた。

※写真は、実際に使用されていたオンブレダンのエーテル吸入麻酔器
出典:吉村 実. オンブレダン氏「エーテル・炭酸ガス麻酔」ニ就テ.
陸軍軍医団雑誌 1931;(220):1921—1931


吸入麻酔薬を正確に患者に吸入させる

 麻酔方法の一つである全身麻酔には、主に口や鼻から麻酔薬を吸入させる「吸入麻酔法」と「静脈麻酔法」の2種類があり、このうち吸入麻酔法に使用される医療機器が「吸入麻酔器」である。

 麻酔器と呼ばれる医療機器が、日本で一般的に使用されるようになったのは1950年以降になってからで、当初は欧米で開発された機器が使用されていた。1950年に閉鎖循環式麻酔器が発売され、同年、日本初の気管挿管麻酔が行われた。その後、1975年、人工呼吸器と組み合わせた麻酔器が開発され、今も使用されている吸入麻酔器の原型となった。

 吸入装置の歴史は古く、1846年、アメリカの歯科医であるモートンがマウスピースの付いた特製のガラス機器を用いてエーテル麻酔の公開実験(本シリーズEPISODE2)で使用した「エーテル吸入器」が最初のものである。その当時の吸入器は、エーテルの入った容器に弁と吸気用の管を取り付け、吸気に混じって吸入されるという構造だった。


「ガス供給部」と「呼吸回路部」

 全身麻酔に使用される医療機器は各種開発され、大きく発展してきた。
現在の吸入麻酔器は、酸素(キャリアーガス)に麻酔ガスを混合して患者に吸入させるが、「ガス供給部」と「呼吸回路部」に大別される。
患者に送られる麻酔用のガスは、麻酔薬を気化させてそれに酸素や亜酸化窒素(笑気)を混ぜ合わせて作り出される。作り出されたガスは麻酔器回路で供給されると同時に、患者が呼出したガス(呼気)から二酸化炭素を取り除いて再利用できるようにしている。
こうした麻酔器も、現在は小型化が進められ、また、コンピュータ制御も図られている。
 ただし、麻酔機器全体としては、モニターやオーダリングシステム、電子カルテ等が一体化してきているため、一見すると大型化しているように見える。現在は、患者のバイタルサインを監視するモニターとも結びつき、患者の状態を総合的に把握・管理できるようになっている。


医療ガスを大気圧に近い状態か測る「圧力計」

 麻酔器の役割は、臨床において患者の生命維持と麻酔深度の維持を保つことにある。そのために前述の吸入麻酔器で触れたように、麻酔用のガスとして酸素と麻酔ガスの混合ガスが用いられている。
 これらは、それぞれ装着したボンベから供給される。酸素ボンベや亜酸化窒素ボンベは高圧になっているので、安全に使用するためには大気圧に近い圧力まで下げなければならない。それを行うのが「減圧弁」で、その圧力を示すのが「圧力計」である。
 圧力計の歴史は、17世紀にイタリアのトリチェリにより開発された気圧計に始まり、その後「液柱形圧力計」「重錘形圧力計」「アネロイド型圧力計」「エンジンインジケータ」などその役割や構造を変えながら、現在に至っている。
 麻酔領域で使用される圧力計は、麻酔時の医療ガス配管設備やボンベから送られる医療ガス供給圧を持続的に計測する。なお、酸素はボンベ内では気体であるのに対して、亜酸化窒素はボンベ内において液体と気体が併存しているが、圧力計で計測しているのは気体部分である。そのため、液体の状態が残っていれば、圧力の変化は見られず、液体部分がなくなった時から圧力は低下する。
 麻酔器に用いられている圧力計の基本的な構造は、昔から大きく変わっていない。それでも最新のものは、例えば使用するガス種類を間違って使用しないように文字盤はガスの種類によって色を変えるなど、より安全・医療事故防止に向けた工夫がなされている。


〈参考文献〉
『麻酔の歴史』(松木明知著 克誠堂出版)〈1998年〉
『ミラー麻酔科学 SIXTH EDITION』(Ronald D.Miller著 武田純三監修/メディカル・サイエンス・インターナショナル)〈2007年〉
印西市立印旛医科器械資料保存協会HP(https://ikakikai-hozon.org/exhibits/department/cat-d/cat-dd/)
圧力計技術の発展の系統化調査(清水明雄)(http://sts.kahaku.go.jp/diversity/document/system/pdf/062.pdf)

〈写真・資料提供〉
印西市立印旛医科器械資料保存協会
日本麻酔科学会


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