PAHのリスク評価
「2025年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン」1)におけるPAHのリスク層別化指標及びフォローアップに関する推奨についてご紹介します。
リスク層別化指標
「2025年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン」1)では、日本独自のリスク層別化指標が提案されています(表1)。
- 欧州のガイドラインにおいて診断時およびフォローアップ時に活用されている指標2)と、わが国で検証を受けたフランスのレジストリスコア3)を基にしたわが国のレジストリを活用し、mPAP 40mmHgをカットオフ値として追加した指標を、重要なリスク層別化指標として位置付けています(表1)。
- パラメータには、WHO機能分類(WHO-FC)、6分間歩行距離、右房圧(RAP)、心係数(CI)、平均肺動脈圧(mPAP)の5項目が含まれています。RAP、CI、mPAPといった血行動態指標も含まれており、主観的な評価にとどまらず、客観的なリスク評価を行い治療を検討することが推奨されたことになります。
- これら5項目のうち、4~5項目で低リスク指標に到達している場合は低リスク、3項目の場合は中リスク、0~2項目の場合は高リスクとなります。
- 日本独自の新たなリスク層別化指標に加え、ESC/ERSで提唱されたリスク層別化指標も掲載されています(表2~3)。
表1 JCSの提唱する診断時/フォローアップ時のリスク層別化指標
表2 ESC/ERS 肺高血圧症診断・治療ガイドライン2022
肺動脈性肺高血圧症における総合的なリスク評価(3層モデル)
表3 ESC/ERS 肺高血圧症診断・治療ガイドライン2022
簡易4層リスク評価ツールの計算に使用する項目
初期治療のアルゴリズム
「2025年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン」1)では、IPAH/HPAH/DPAH/SSc-PAHの治療アルゴリズム(図1)が示されています。
- 初期治療はリスク層別化にもとづいて実施します。わが国では重症例に対して積極的に3剤併用療法が行われ、良好な予後を認めています4)。
- さらに、高リスクに分類される患者に対し、非経口プロスタサイクリン製剤を含む3剤併用療法が有効であることが海外のレジストリから示されていることから5)、診断後すみやかに導入することが望ましいとされています。
- 高リスクに分類されない患者の場合は、エンドセリン受容体拮抗薬(ERA)およびPDE5阻害薬による併用療法が推奨されます。両薬剤を同日に開始してもよいですが、忍容性担保のために1~2週間の短期間で逐次開始する方法がとられることが多いとされています。タダラフィルとマシテンタン6)、またはアンブリセンタン7)に初期併用療法のエビデンスがあるため、組み合わせとして推奨されています。
フォローアップの間隔
「2025年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン」1)のIPAH/HPAH/DPAH/SSc-PAHの治療アルゴリズム(図1)では、フォローアップの間隔について提案されています。
- 初期治療開始後は治療反応性を評価するために一般的に3~4ヵ月後に血行動態評価を含む評価を行います。
- 以降においても治療介入を強化した場合には3~6ヵ月ごとの血行動態のフォローアップを行うことが望ましいとされています。
- 低リスクで安定的な状態に至った場合には6ヵ月~1年ごとの非侵襲的なリスク評価を行うとともに、1年ごとの血行動態評価を行う場合が多いですが、特に良好な血行動態が得られている場合には、カテーテル検査の間隔を開けることも可能です8)。
治療強化
「2025年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン」1)のIPAH/HPAH/DPAH/SSc-PAHの治療アルゴリズム(図1)では、治療強化について示されています。
- フォローアップの際もリスク評価を行います。
- 低リスクの場合には原則として治療強化は必要ないと考えられます。ただし、血行動態評価を伴わないリスク評価の場合、AMBITION試験、GRIPHON試験、SERAPHIN試験のメタ解析の結果から、低リスクに分類された患者の20%以上が3年以内に臨床的悪化イベントを起こしていることが示されています9)。そのため、低リスクに到達した場合にも、個別化された治療強化を否定するものではないとされています。
- 中リスク又は高リスクの場合には、重症度を総合的に評価しながら適切な治療介入の強化を考慮するとされています。
- 特に、血行動態の改善をめざして治療強化を行うことは、右室機能の改善や良好な長期予後をもたらすと報告されています。
References
1)日本循環器学会/日本肺高血圧・肺循環学会.2025年改訂版肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン.
2)Humbert M et al. Eur Heart J. 43, 3618-3731(2022)
3)Tamura Y et al. BMC Pulm Med. 21, 28(2021)
4)Tamura Y et al. Circ J. 82(1), 275-282(2017)
5)Boucly A et al. Am J Respir Crit Care Med. 204(7), 842-854(2021)
6)Grünig E et al. J Am Coll Cardiol. 83(4), 473-484(2024)
COI:著者にAcceleron Pharma(現MSD社)およびMSD社から助成金等を受領している者を含む。
7)Galiè N et al. N Engl J Med. 373(9), 834-844(2015)
8)Chin KM et al. Eur Respir J. 64, 2401325(2024)
COI:著者にMSD社から助成金等を受領している者を含む。
9)Blette BS et al. Lancet Respir Med. 11(10), 873-882(2023)
COI:著者にAcceleron Pharma(現MSD社)及び/又はMSD社からデータ安全性監視委員会のメンバーとして謝金等を受領している者を含む。



