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1分で読める睡眠豆知識 ~脳がない生物にも存在する「睡眠様状態」とは~

生物の「睡眠様状態」

睡眠はヒトのような発達した中枢神経系を持つ生物が脳を休めるための行動、というイメージがあるかもしれません。しかし、サンゴやクラゲ、線虫のような単純な生物においても、睡眠のような状態、すなわち「睡眠様状態」は散見されています1, 2)。これらの睡眠様状態の共通の特徴は「可逆的な行動静止」「刺激に対する反応性の低下」「催眠物質に対する作用」などです。中枢神経系が発達していない生物においてもこのような状態がみられるということは、睡眠というものが、中枢神経の進化に先行して現れたものであることを示唆しています1)

ヒドラはなぜ眠るのか?

2020年には、ヒドラの睡眠様行動に関する研究が報告されました2)。ヒドラは細長い体に長い触手を持つ無脊椎動物で、神経細胞はありますが中枢神経システムは持ちません。本研究では、ヒドラも「可逆的な行動静止」「刺激に対する反応性の低下」などの特徴を持つ睡眠様状態をとることがわかりました。また、夜間に機械刺激を与えてヒドラの睡眠様状態を阻害すると翌日は睡眠様状態の時間が長くなったり、GABAやメラトニンによって睡眠様状態が促進されたりすることもわかりました。

では、中枢神経を持たない生物がなぜこのような状態をとるのでしょうか。本研究では、ヒドラの睡眠様状態の阻害によって、細胞分裂が抑制されていることが明らかになっています。すなわち、睡眠は成長や繁殖などを促進するために生物が獲得した現象である可能性が示唆されました。睡眠には、脳の休息以外にも様々な役割がありそうです。

  1. RD Nath, et al. Curr Biol. 2017; 27(19): 2984-2990.e3
  2. HJ Kanaya, et al. Sci Adv. 2020; 6(41): eabb9415.