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睡眠不足が与える脳への影響

睡眠不足とアルツハイマー病の関係

先生は、夜勤明けにうまく頭が働かない、といった経験をされたことはありませんか?睡眠不足が脳へ影響を与えるということを、実感として感じられたこともあるのではないでしょうか。

脳への影響との点について、例えば、睡眠不足がアルツハイマー病の発症にも関連しているというエビデンスが蓄積されつつあります。アルツハイマー病の発症機構としては、アミロイドβやタウなどの異常タンパク質の脳への蓄積が関与しているという仮説が支持されています。これに関連して、30~60歳の成人を対象に脳脊髄液を調査した研究では、睡眠不足によってアミロイドβが約30%、タウが約50%増加することが示されています1)

イラスト

ノンレム睡眠が脳の不要物質を洗い流す

睡眠不足が脳へ何らかの支障をきたすこと、睡眠が日々の活動において大切であることは、経験からも大きな異論はないものと思われます。では、睡眠時、どのタイミングでどのような反応が生じているのでしょうか。

米ボストン大学のNina E. Fultz氏らは、興味深い研究を発表しています2)。本研究では、睡眠中のヒトの脳内血行動態、脳波、脳脊髄液流量を測定し、これらの関連を調査しました。その結果、脳波に低周波がみられるステージ、すなわちノンレム睡眠中に脳脊髄液の拍動流が発生していることがわかりました。さらに、脳脊髄液流と脳内血行動態の振動は逆相関しており、脳内血流量が減少することで脳脊髄液流量の増加が引き起こされることもわかりました。この結果は、ノンレム睡眠によって脳内の血行動態が抑制されることで、脳脊髄液の流れが発生し、不要物質が脳から「洗い流されている」ことを示唆しています。

  1. Jerrah K. Holth, et al. Science. 2019; 363(6429): 880–884.
  2. Nina E. Fultz, et al. Science. 2019; 366(6465): 628-631.