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睡眠と腸内環境

脳、腸、腸内環境の関係

腸は独自の神経ネットワークを構築していることから「第2の脳」とも呼ばれ、腸と脳が影響しあうことを「脳腸相関」と呼びます。最近、この関係性に腸内環境を加えた、脳─腸─腸内細菌叢軸(brain-gut-microbiota axis: BGMA) という概念が提唱されていることをご存じでしょうか。

BGMAの例として、睡眠がヒトの腸内細菌叢の組成に影響することが複数の研究によって示されています。例えば、短期の睡眠不足はCoriobacteriaceae科やErysipelotrichaceae科などの細菌の割合を増加させます1)。一方、睡眠の質が向上すると、Verrucomicrobia門とLentisphaerae門の細菌の割合が上昇することが報告されています2)

イラスト

腸内細菌が睡眠の質に関与する

さらに、腸内細菌が睡眠調節機能に影響を与えている可能性も示唆されています。米ミズーリ大学のMohammad Badran氏らは、マウスを睡眠時無呼吸症候群患者と同様の間欠的低酸素(IH)条件、または通常の環境下(RA)で飼育し、それぞれの腸内細菌叢をナイーブ型マウスに移植(FMT)して観察する研究を行いました3)。その結果、FMT-IHマウスの腸内細菌叢では、FMT-RAマウスと比較して嫌気性菌の割合が増加しました。また、FMT-IHマウスは FMT-RAマウスと比較して暗期(すなわち通常の覚醒時間帯)に覚醒する割合が有意に低下しました。これは本来の覚醒時間帯に眠気が増加していると考察され、睡眠時無呼吸症候群のような睡眠パターンを示唆しています。

この結果は、睡眠と腸内細菌の関連が双方向性であり、腸内細菌の組成変化が睡眠障害を誘発しうる可能性を示しています。

  1. Christian Benedict, et al. Mol Metab. 2016; 5(12): 1175-1186.
  2. Jason R. Anderson, et al. Sleep Med. 2017; 38: 104-107.
  3. Mohammad Badran, et al. Exp Neurol. 2020; 334: 113439.