作用機序
ウェリレグ®の作用機序
ウェリレグ®はHIF-2αと結合することで、低酸素条件下又はVHL蛋白質の機能喪失時のHIF-2α-HIF-1βのヘテロ二量体形成を阻害し、HIF-2αによる標的遺伝子の転写及び発現を抑制します。
①通常時(正常な酸素環境/正常なVHL蛋白質機能)
HIF-2α(Hypoxia-inducible factor-2 alpha)は、組織が低酸素環境に適応するために機能する低酸素誘導因子であり、低酸素応答経路で中心的な役割を果たす転写因子として作用します。また、癌抑制因子であるVHL(von Hippel-Lindau:フォン・ヒッペル・リンドウ)蛋白質はHIF-2αの分解を誘導する働きを担っています。正常な酸素環境下では、PHD(Prolyl-hydroxylases:プロリン水酸化酵素)活性化によりHIF-2αのプロリン残基が水酸化され、そこにVHL蛋白質が結合し、HIF-2αをユビキチン化します。ユビキチン化されたHIF-2αはプロテアソームで分解されます1,2)。

②低酸素環境/VHL蛋白質機能喪失
低酸素環境下、又はVHL遺伝子変異等*によるVHL蛋白質の機能が喪失している場合には、HIF-2αはプロテアソームによる分解を免れ、細胞内でHIF-1β(別名ARNT)とのヘテロ二量体を形成します。HIF-2α-HIF-1βヘテロ二量体は、DNA上の低酸素応答配列(HRE)に結合してHIF標的遺伝子の転写を促進し、血管新生、細胞増殖及び生存、細胞外マトリックスのリモデリング、pH恒常性、グルコース代謝、赤血球生成を制御する遺伝子などの発現を誘導します1,2)。
*エピジェネティックなサイレンシングを有することがあるため、VHL遺伝子に変異が認められない場合がある3)。

③低酸素環境/VHL蛋白質機能喪失
ウェリレグ®は選択的なHIF-2α阻害剤です。HIF-2α-HIF-1βヘテロ二量体は、ヘリックス-ループ-ヘリックスとPASドメイン(PAS-AとPAS-B)によって形成されています(➡参考)2)。本剤は、HIF-2αのPAS-Bドメインのポケットに結合することによりHIF-2αとHIF-1βのヘテロ二量体形成を阻害し、HIF標的遺伝子の転写で誘導されるVEGFA、CCND1、SERPINE1、SLC2A1及びEPOなどの細胞増殖、血管新生及び腫瘍増殖に関わる下流遺伝子の発現を抑制し、抗腫瘍効果を示すと考えられます1,2,5,6)。
VEGFA(Vascular endothelial growth factor A gene):血管内皮細胞増殖因子A遺伝子
CCND1(Cyclin D1 gene):サイクリンD1遺伝子
SERPINE1(Plasminogen activator inhibitor type 1 gene):プラスミノーゲン活性化因子インヒビター1遺伝子(別名PAI-1遺伝子)
SLC2A1(Glucose transporter solute carrier family 2 member 1 gene):グルコース輸送体solute carrier family 2 member 1遺伝子
EPO(Erythropoietin gene):エリスロポエチン遺伝子

(各図のスケールはわかりやすくするため調整しています)
VHL(von Hippel-Lindau):フォン・ヒッペル・リンドウ
OH:水酸基
PHD(Prolyl-hydroxylases):プロリン水酸化酵素
pVHL:VHL蛋白質
参考
ウェリレグ®によるHIF-2α-HIF-1βヘテロ二量体の形成阻害―アロステリック阻害2,4)
(イメージ図)

HIF-2αとHIF-1βのヘテロ二量体は、ヘリックス-ループ-ヘリックスとPASドメイン(PAS-AとPAS-B)の結合により形成されます。

HIF-2αのPAS-Bドメインポケットにウェリレグ®が結合することで、HIF-2αにアロステリックな構造変化が生じ、HIF-2α-HIF-1βヘテロ二量体形成が阻害されます。
「ウェリレグ®の作用機序」が動画でご覧いただけます。
参考文献
1)Keith B et al. Nat Rev Cancer 2011; 12: 9-22
2)Kaelin Jr WG. J Cin Oncol 2018; 36: 908-910 著者はPeloton Therapeutics社(現MSD)から資金援助等を受けている。
3)Nguyen MP et al. Arch Pharm Res 2013; 36: 252-263
4)Ren X et al. Mol Pharmacol 2022; 102: MOLPHARM-AR-2022-000525
5)社内資料:786-O細胞でのHIF-2α依存性遺伝子発現及びHIF-2α とARNTのヘテロ二量体化に対する阻害
6)社内資料: HIF-2αの選択的阻害