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1分で読める睡眠豆知識 ~冬眠のしくみ~

コールドスリープへの第一歩

一部のSF作品では、ヒトを冷凍状態にして老化を防ぎつつ保管する、いわゆる「コールドスリープ」の描写がみられることがあります。最近では、現実世界でも生殖補助医療(ART)の領域において、卵子や精子、受精卵の凍結保存が行われるようになりました。SFのように生物をまるごとコールドスリープさせる技術も、いつかは実現するかもしれません。

その足掛かりともなりそうな研究が、2017年にモスクワ大学とプリンストン大学から報告されました。シベリアの永久凍土の中で休眠していた3万年前から4万年前の線虫を採集して、室温20度で培養したというものです1)。この研究では線虫のクローン培養に成功しています。

冬眠を制御する新たな神経回路の同定

哺乳類においても、冬の間のみ代謝を低下させて動かずに過ごす「冬眠」という生態があります。冬眠中の動物は正常時と比べて酸素消費量や体温が低下しますが、組織障害を伴うことなく自発的に元の状態に戻ります。この冬眠の制御機構については、臓器移植などの医学応用も見込めるとして、現在注目されています。

これに関連して、2020年、国際統合睡眠医科学研究機構は、マウスを冬眠に似た状態に誘導できる新しい神経回路を同定しました2)。本研究では、マウスの視床下部の一部に存在する神経細胞群を興奮させることで、長期持続性の低体温および代謝低下状態を誘発することに成功しています。この神経細胞群はQ神経(Quiescence-inducing neurons:休眠誘導神経)と名付けられました。この発見により、冬眠制御機構の理解と応用に向けて大きく前進したと言えるでしょう。

  1. Shatilovich AV, et al. Dokl Biol Sci. 2018; 480(1): 100-102.
  2. Takahashi TM, et al. Nature. 2020; 583(7814): 109-114.