長野県立信州医療センター オミクロン株流行下におけるCOVID-19治療のポイント
解説コラム
長野県立信州医療センター
オミクロン株流行下におけるCOVID-19治療のポイント
2022年11月7日取材
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長野県立信州医療センター 副院長・感染症センター長
山﨑 善隆 先生
目次
- 昨今のCOVID-19
- オミクロン株BA.5流行下におけるCOVID-19患者の臨床像
- COVID-19診察のポイント
- COVID-19治療の実際
- ‘Withコロナ’が現実になってきた中でのCOVID-19診療の展望
昨今のCOVID-19
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックが3年を迎えようとしています。国内では2022年1月にオミクロン変異株に置き換わり、第6波さらに第7波において新規感染者数は増加しましたが、病態としては軽症化しています。ワクチンの普及や、従来株やアルファ株、デルタ株で認められたウイルス性肺炎が稀になったことが要因と考えられます。
一方で、オミクロン株感染により惹起される発熱、上気道炎症状により高齢者が細菌性肺炎を併発したり、基礎疾患の増悪により入院や死亡する患者数は増加しました。
長野県では、保健所が発生届やクリニックからの連絡で重症化リスクがある患者をコロナ受入れ病院に紹介して、診察や検査を行い、自宅療養・宿泊療養・入院などに振り分けをする体制をとっています。発熱外来やコロナ病床がひっ迫した際に、重症化リスクを有する患者を迅速に抗ウイルス治療や入院に繋げて効果を発揮しています。
長野県立信州医療センター
副院長・感染症センター長
山﨑 善隆 先生
オミクロン株BA.5流行下におけるCOVID-19患者の臨床像
当院は、感染症指定医療機関として23床の確保病床を運用しています。オミクロン株が主流となった現在、COVID-19患者のほとんどは軽症であり、発熱、上気道炎症状を特徴とし、すりガラス陰影を有する重篤なウイルス性肺炎はみられなくなりました。一方で、高齢者や基礎疾患を有する患者、特に介護を要する高齢者が誤嚥性肺炎や食欲不振、脱水を起こして入院に至るケースが増えています。このような患者では、二次感染によって重症化しやすいことから、迅速な抗ウイルス治療で症状を軽減し、必要に応じて補液、抗菌薬を投与することが治療のポイントとなります。
COVID-19診察のポイント
当地域では、有症状で医療機関において陽性が確定した患者に対して提出された発生届から、まず保健所でリスク評価を行います(図1)。リスク因子を持たない軽症患者はそのまま宿泊療養または自宅療養とし、リスク因子を有する軽症患者、中等症以上の患者は、コロナ受入れ病院において振り分け診察を行います。
当院の振り分け診察では、保健所から提供された臨床情報をもとに看護師がバイタルサインをチェックします。その後、医師が対面で診察して投与中の薬や基礎疾患の状態、全身状態等を確認し、治療方針を決定します。当院で振り分け診察を行った患者において、かかりつけの患者が占める割合は10~20%であり、初診の方ではこれまでの詳細な経過が明らかではありません。診察では入室時の様子なども注意深く観察し、採血検査やCT検査も行いながら、わずかな誤嚥性肺炎なども見落としがないよう努めています。
図1 オミクロン株以降の診療フロー
COVID-19治療の実際
当院で行われるオミクロン株感染例の治療は、対症療法を中心に、高齢または重症化リスクを有する患者や酸素吸入や補液が必要な患者等に対しては抗ウイルス薬を使用しています(図2)。また、症状が進行し、細菌性肺炎を合併している場合は抗菌薬を投与します。自宅療養中に病状が悪化して入院に至るケースもありますが、コロナ病床の逼迫が課題となる中、入院患者を減らすことはできないかと考え、軽症~中等症患者で重症化リスク因子を有していたり症状が強い症例など、経口抗ウイルス薬投与の適応となる患者には外来でラゲブリオ®などを投与し、電話診療で経過観察(図3)を行う取り組みも始めています。ただ、今後の医療ひっ迫を防ぐためには、重症化リスク因子を有している患者だけではなく、経口抗ウイルス薬投与が必要となる対象患者の更なる検討や、電話診療などを有効活用し、医療従事者の負担を軽減する取り組みの検討が重要と考えます。
図2 オミクロン株感染例に対する治療の現状
図3 電話診療時のポイント
‘Withコロナ’が現実になってきた中でのCOVID-19診療の展望
現在主流となっているオミクロン株BA.5の感染力は高いものの、ワクチンの効果と合わせて明らかに軽症化してきており、対症療法によって数日以内に症状が改善するケースがほとんどです。一方で、介護が必要な高齢者や基礎疾患を有する患者などでは、オミクロン株であっても嚥下困難による脱水、誤嚥性肺炎、基礎疾患の増悪によって入院に至るケースが多いです。このようなリスク因子を有する患者や、発熱、咳、咽頭痛などの症状が持続し、全身状態が悪化している患者では、迅速な抗ウイルス治療で症状を軽減し、重症化を防ぐことが重要であると考えます。‘Withコロナ’時代を迎えるにあたって、地方においても早期診断・早期治療を達成するためには、医療機関と保健所をはじめとした行政との連携や、経口抗ウイルス薬と電話診療などを用いた工夫が各地で浸透することがますます期待されます。