取り組み事例レポート:兵庫県立がんセンター

取り組み事例レポート

兵庫県立がんセンター
免疫チェックポイント阻害剤の有害事象に対するがんセンターとしての取り組み

2022年7月 掲載(2022年2月4日 取材)

兵庫県立がんセンター
乳腺外科・腫瘍内科
免疫療法研修部会・外来化学療法センター

※ 当該記事における肩書き・内容等の記載は、取材時点の情報です

乳癌ステージⅢの5年生存率の実績に腫瘍内科との連携による標準治療の結果が反映

兵庫県立がんセンター(400床)は、2007年に都道府県がん診療連携拠点病院の指定を受けた。がん診療の中核病院としてその重責を担っているが、2003年に外科から独立した乳腺科(のちに乳腺外科に改名)が乳癌に特化した診療を行ってきた。毎年約200例の乳癌手術を施行してきたが、2020年は約250例まで増加した。

乳腺外科部長の髙尾 信太郎医師は乳腺外科のビジョンについて、「全ての乳癌患者さんにとって最善の治療を行うために、がんセンターとしてのレベルを最高にすること」と述べる。がんセンターの乳腺外科として地域への貢献も大きい。患者はほぼ100%が紹介だが、同センターで実施する治療が終わった後は、地域連携パスを活用し地域の医師と一緒に患者を診ていく。髙尾医師は「連携によって地域全体における乳癌診療のレベルの底上げや活性化につながる」と指摘する。

周術期薬物療法の多くを腫瘍内科が担当し、再発患者は乳腺外科と腫瘍内科が連携してフォロー

同センターで腫瘍内科に紹介された患者の内訳を見ると、同科がとくに専門性を有している乳癌、希少癌、頭頸部癌、婦人科癌で全体の約8割を占め、なかでも乳癌が39%と最も多い。

乳癌に対する薬物療法は基本的に乳腺外科と腫瘍内科が連携して行っている。周術期薬物療法の多くを腫瘍内科が担当し、再発患者の薬物療法は乳腺外科と腫瘍内科が分担して行っている。再発患者には乳腺外科・腫瘍内科共通のレジメンを使い、有害事象対策も連携してフォローしている。両科は週1回の合同カンファレンスでのディスカッションを通し、患者にとってベストの選択を探っていく。

この点について、髙尾医師は次のように言う。
「これだけ薬剤が多岐にわたる状況では、一つの科で治療を完結することには無理がありますし、自分の考えだけに固執して臨床判断をすべきではないと思います。腫瘍内科や他の職種の意見にも耳を傾けながら、視野を広くもって治療に向き合うことが重要です。かといって、乳腺外科だから薬物療法を知らなくていいというわけではありませんし、患者さんに『一緒に診ていますよ』というメッセージを伝えることも大切です。腫瘍内科にお任せしていても途中経過で我々が患者さんを診ることもありますし、カルテを確認してその患者さんが今どんな薬物療法を受けていて、どのような状態にあるかは常に気にかけています。腫瘍内科との信頼関係のもと、協力して治療を進めることが患者さんの期待に応える最善の医療につながると考えています」

医療として妥当な範疇の中で患者の治療参画による「Shared Decision Making 」を

乳癌の治療は経過が長い。そのため、患者と医師、メディカルスタッフとの信頼関係がより重要になってくる。そこで髙尾医師が最も重視しているのは「患者さんの理解度を高め、医療に何を期待しているのかを確認しながら、治療方針を一緒に考える」ということだ。
「乳癌の特徴として、再発されてからの経過は非常に長く、10年近く治療を続けている方もたくさんいらっしゃいます。近年、免疫チェックポイント阻害剤(ICI:Immune-Checkpoint Inhibitor)など多くの薬剤が登場し、使い方も難しくなってきています。何が最善の治療なのか、何を優先すべきなのかは個々の患者さんにとって違います。その判断に際して大切なのは、患者さんにご自身の病気や治療について理解していただくことです。治療選択肢は増え、薬剤の有害事象も複雑化していますから、話すべきことはたくさんあります。そこで気をつけたいのは一度に全てを話してしまわないことです。多くを話しても、患者さんは診察室を出たらほとんど覚えていません。患者さんに一つひとつ確認しながら、説明はその日理解できるところまでにとどめておき、あとは患者さんにゆっくり考えてもらうように促しています。患者さんが今どういう状態にあり、精神的なケアも含めて我々乳腺外科に何を期待しているのかを把握したうえで、ある程度の道標を提示して一緒に考えていきましょうというスタンスが大切になります」(髙尾医師)

近年、乳癌領域においても患者の治療参画が注目されている。たとえば、自覚症状を伴う有害事象について、医師と患者の評価にずれが生じる場合も少なくない。そこで、医療者による臨床評価だけでなく患者自身の評価である「患者報告アウトカム」(PRO:Patient Reported Outcome)が臨床試験の研究の一部として導入されている。最近では、スマートフォンを用いたePRO(electronic PRO)の研究も進んでいる。ePROの研究に参加している松本医師は次のように説明する。

「患者さんの実感を診療の意思決定に反映するのがPROです。医師の評価ではなくて患者さん自身の認識や言葉を記録して、それを活かすことで医療の質を上げようというのがその本質です。当院の外来化学療法センターでは、ICIや化学療法を受けている患者さんに『治療日誌』を書いてもらっていますが、これもPROの一つと捉えて活用しています。大切なのはこうしたツールも用いながら、患者さんの価値観を加味したShared Decision Making(SDM:共有意思決定)を行うことであり、これは今後拡大すべき方向性の一つだと思います。ただし、患者さんが望むからといって現在の腫瘍学で否定されているような治療を選択すべきではありません。あくまでも医療として妥当な範疇の中での自己決定を促すことが重要です」

髙尾医師は「患者さんの治療参画を進めるためにも必要なことは、患者さんが病気や治療についての理解度を高めることであり、我々が正しい知識・情報など判断材料を提供したうえで意思決定していくことが大切です」と強調する。

さらに、「患者さんが誤った情報に振り回されることは避けなければならない。ネット情報は玉石混交なので要注意」と松本医師。患者が情報を得たいという場合に松本医師が勧めているのは、日本乳癌学会編『患者さんのための乳がん診療ガイドライン』と国立がん研究センターが運営するウェブサイト『がん情報サービス』の2つである。前者は乳腺外科でも購入しており、入院中に患者に読んでもらい、理解を深める一助にしているという。

松本医師からの用語解説
Shared Decision Making(SDM:共有意思決定)

医療の現場では従来から、患者中心の医療を実現する手段としてインフォームド・コンセント(IC)が行われてきました。しかし、一般に患者と医師の間には情報格差があり、患者側の医療知識が少ない場合、ICは医療側からの一方的な情報提供に終始しがちで、医師が最良と考える治療に着地することが少なくありません。こうした背景から、医療情報を患者が理解していることを確認したうえで、医療者と患者・家族の対話によって共同で治療方針を決定するSDMの考え方が注目されています。とくに、がん診療においては治療選択肢が複数存在するため、早くからSDMの重要性が指摘されています。

「免疫療法研修部会」がirAEマネジメントの仕組みづくりに取り組む

兵庫県立がんセンターにおけるICIの院内勉強会であり、irAEマネジメントの仕組みづくりに取り組んでいるのが「免疫療法研修部会」(以下、部会)だ。

ICIが導入され、臓器横断的な免疫関連有害事象(irAE:immune-related Adverse Events)への対応が問題になってきたことを契機に、ケモレジメン委員会の下部組織として2016年3月に部会を立ち上げた。コアメンバーは、松本 光史医師、藤木 育子看護師(がん化学療法看護認定看護師)、大原 沙織薬剤師(外来がん治療認定薬剤師)の3名である。

さらに、スーパーバイザーとして⾥内 美弥子医師(副院長)、津田 政広医師(化学療法担当部長)がサポートをしている。

部会の最大の目的はirAEマネジメントで、リスクを想定し病院の実情に即した対応をルール化することだ。具体的には、irAEマネジメントのマニュアル作成、教育・研修などである。

検査セットとコンサルトの目安を作成

部会では、irAEの早期発見につなげるためにICI投与前にルーチンで行う検査をセット化している。

ICI投与開始前にはの検査セットで確認している。

 ICI投与開始前に確認する検査項目(兵庫県立がんセンターの例)

表 ICI投与開始前に確認する検査項目(兵庫県立がんセンターの例)

さらに、ICI投与開始後は、定期的に行う検査項目とirAE発現時のコンサルトの目安と必要検査をきめ細かに定めている(図1)。

図1 irAE発現時のコンサルトの目安と必要検査(間質性肺炎)

【POINT】コンサルトの目安と必要な検査、注意事項のポイントをまとめている

図1 irAE発現時のコンサルトの目安と必要検査(間質性肺炎)

提供:兵庫県立がんセンター(2022年2月現在)

松本医師によると「致命的なirAEで多いのは、肺、肝、腸、神経であり、個々のirAE対応にアルゴリズムがある」という。そこで、後述の神経系、内分泌系以外に注意すべきirAEとして「間質性肺炎」「下痢・大腸炎」「肝機能障害」「皮膚症状」を想定し、臓器別アルゴリズムに基づいた対応を明確化している。

当直医向けにirAE初期対応マニュアルを整備

部会が最優先で取り組んだのは「ICI投与時のマニュアル」を作成することだった。なかでも眼目の一つが、ICIの投与経験のない当直医向けにirAEへの注意喚起を行うことである。

まず、当直帯に患者から電話があった際に、「ICIを使用中であること」が一目でわかるよう、電子カルテのトップ画面の重要事項に記載をすることを定めた(図2)。

図2 電子カルテのトップ画面(掲示板)

【POINT】ICIを投与中ということが一目でわかるように、電子カルテのトップ画面に掲示

図2 電子カルテのトップ画面(掲示板)

提供:兵庫県立がんセンター(2022年2月現在)

とくに重要なのは、緊急性の高いirAEへの対応である。重症筋無力症・筋炎や内分泌障害、劇症1型糖尿病が発現することは、ICIが登場した早い時期から報告されていた。しかし同院には神経内科と常勤の代謝内分泌内科がないため、そうしたirAEが疑われた際に対応ができるよう「重症筋無力症・筋炎」、「内分泌障害」、「劇症1型糖尿病」についてのirAE初期対応マニュアルを作成した(図3)。

図3 irAE初期対応マニュアル(重症筋無力症・筋炎の例)

【POINT】とくに注意が必要な項目は「Donʼt 」「Do」と強調表示

図3 irAE初期対応マニュアル(重症筋無力症・筋炎の例)

提供:兵庫県立がんセンター(2022年2月現在)

松本医師は次のように説明する。
「ICI治療に習熟した医師が不在の時間帯にirAEが疑われる患者さんの受診、あるいは電話連絡があった場合でも、病院として最初の24時間を乗り切れる最低限の対応を行うためのマニュアルを整備しました。そのなかで、『Donʼt 』『Do』と強調して表示するということを明確にしました」

さらに、松本医師は「irAEが発生して院内外でコンサルトする際に、受ける側の医師が必要になるであろう検査をデフォルトで組んでおけば対応がスムーズになると意図してセット化しています」(図4)と言う。

図4 irAE初期対応検査セット

【POINT】緊急性が高く重篤化する恐れのあるirAEを中心に、初期対応検査をセット化している

図4 irAE初期対応検査セット

提供:兵庫県立がんセンター(2022年2月現在)

呼吸器内科では、初回治療がICI単剤の場合は入院で行い、ICIやirAEの理解を深めるための指導を行う

irAEの早期発見のためのポイントの一つに患者教育がある。irAEは経過中いつでも、全身どこにでも生じる可能性がある。外来投与中においては、患者の自覚症状によりirAEが発見されることが少なくない。

病棟には24時間看護師が常駐しているとはいえ、シフトによって担当は変わる。そこで大切になるのが看護師同士の情報共有だ。病棟では、電子カルテの経過表の中で要注意のirAE症状などの観察項目をセット化したものを作成している(図5)。

図5 電子カルテの画面(有害事象の観察項目セット)

【POINT】継続的な観察により変化を記録し、情報を共有する

提供:兵庫県立がんセンター(2022年2月現在)

「セット化した観察項目に看護師各人が入力していきます。たとえば、下痢があった場合、状態が具体的にわかるように便の性状を判別するブリストルスケールなど排便の状況がわかる尺度などを用いて記載していきます。皮膚症状であればどの範囲でどういう症状が出ているのかがわかるように記録を残します。irAEは時間経過の中で症状が重症化することも少なくありません。継続的な観察によって、そうした変化を具体的に記録していくことが大切です」(藤木看護師)

診療科を越えてirAEの経験を共有し病院全体としてICIの適正使用を推進する

部会では院内の各診療科医師やコメディカルスタッフを対象としたセミナーを2ヵ月に1回の頻度で開催している。当初はICIを使用する診療科が少なかったので参加者は限られていたが、適応症の追加とともに、セミナーへの参加者も増加してきた。「ICIやirAEに対する意識の変化が、参加人数の増加によって肌で感じることができた」と松本医師は言う。

研修内容は全てDVD化して薬剤部に保管しており、希望者には自由に貸し出しを行っている。新しく来たスタッフにもわかるよう、電子カルテの部会のページにDVDが閲覧できる旨を載せている。

このように、セミナーを実施することで、各診療科での経験が病院全体としてのICIの適正使用推進につながっているようだ。

さらに松本医師は「教育は継続が重要」と強調する。「マニュアルを作成し、実際にそのirAEを経験するまで3~4年経っているということもあります。その間に新たなエビデンスが蓄積されている場合もあるでしょう。ですから、マニュアルも一度作成して終わりではなく常にアップデートが必要だと思います」と言う。

irAEマネジメントのポイントは「抱え込まないこと」
ー各スペシャリストに積極的につなぐチーム医療が重要

irAEマネジメントにおいて重要なのはさまざまなスペシャリストによる協働だ。チーム医療の重要性について松本医師は次のように指摘する。

「私たちのスローガンは『抱え込まずに積極的につなごう』ということです。irAEの診断や支持療法を行う場合、主治医や一つの診療科だけで抱え込まないことが大切です。irAEは臓器別にアルゴリズムが違いますし、支持療法のさじ加減などは経験がものを言うところがあります。ですから、それぞれのスペシャリストに気軽に相談できる仕組みやコンサルトの目安を作ることが必要です。その仕組みを院内で円滑に回すためには、医師だけで完結するのではなく、看護師や薬剤師が横串となって活躍することが重要になります」

場合によっては、自施設で「抱え込まない」ということも必要になる。がんセンターは大学病院とは違い、診療科をオールラウンドにカバーしているわけではないので、irAEへの対応に当たっては他施設との連携が欠かせない。同院では他施設の神経内科と代謝内分泌内科との連携を視野に入れたマニュアル等を整備した。

「最初はマニュアルのたたき台を作成して、それを連携先の医師に見てもらうところから関係づくりを始め、出来上がったものをお披露目する際にその医師に来ていただきそのテーマについて講演してもらうといったことも行いました」と松本医師。

現在では、代謝内分泌内科に関しては週1回専門医が同院で診療を行っており、外来のない日でも電話での相談が可能な状況にある。また近年、全国的に神経内科医の間ではirAEとしての重症筋無力症・筋炎への関心が高まっており、互いに知識をアップデートすることでスムーズかつレベルの高い診療連携が可能になっているという。

irAEマネジメント Tips&Traps

  • ICIに慣れていない医師にirAEの注意を喚起し、早期発見・早期対応を可能とするマニュアルや仕組みをつくる。一度作成して終わりではなく、常にアップデートが必要
  • 診療科や職種を越えて院内横断的にirAEの経験を共有する

治療当日は薬剤師と看護師がそれぞれの視点で自覚症状の聞き取りを行う

ICIや化学療法によるがん薬物療法の最前線が、1階正面⽞関を入ってすぐ右手にある外来化学療法センターだ。2004年に開設されて以降2回の拡張工事があり、40床となった。1日平均の患者数は50~ 60人、多い日は100人に上る。スタッフの陣容は、専任看護師12名、専任薬剤師4名、クラーク4名。そして、腫瘍内科の診察室は同センターと構造上一体となっており、2名の医師が常駐しているため緊急時にも即対応可能だ。松本医師は同センター長を兼ねている。

治療は主治医(腫瘍内科)による予約制になっている。治療の流れは、初めてがんに対する薬物療法を受ける場合と2回目以降で異なる。初めての場合は、治療前日までに主治医の治療計画や内容の説明、薬剤師による薬物療法や支持療法に用いられる薬剤の説明、看護師による外来化学療法センターの見学が行われる。治療当日は基本的に、採血、主治医の診察、薬剤師・看護師による説明・指導などが行われる。2回目以降は、まず採血と薬剤師の問診を行い、その結果と体調を主治医が確認し、治療を開始する。

有害事象対策について特筆すべきは、治療当日に薬剤師と看護師がそれぞれの専門性に基づいて患者からの聞き取りを行うことだ。

まず、ICIの投与や周術期に化学療法を行う場合は、採血結果が出るまでの間に「薬剤師外来」で薬剤師が体調などの聞き取りと有害事象の評価を行う。場合によっては、主治医に処方の調整を提案することもある。

薬剤師外来について、大原薬剤師は次のように説明する。「有害事象などにとくに注意が必要な化学療法15レジメンとICIを投与している患者さんについては、採血から診察までの待ち時間を利用して薬剤師外来でお話を聞かせていただきます。ICIの場合は、聞き逃すことがないように、免疫療法研修部会で作成した10項目ほどの問診票を使用します。患者さんは何らかの症状があっても、医師の診察時は時間を気にして言えなかったり、言い忘れることもありますが、薬剤師外来では比較的時間があるので、問診票を使って一つずつ丁寧に聞いていくことができます。患者さんから聞き取った症状や日常生活で困っていることは電子カルテに記入し、情報を医師や看護師に共有しています」(図6)。

図6 ICI投与中の患者に対し、薬剤師が用いる問診票

【POINT】採血から診察までの時間を利用し、薬剤師が問診票を用いて具体的な症状を確認する

図6 ICI投与中の患者に対し、薬剤師が用いる問診票

提供:兵庫県立がんセンター(2022年2月現在)

投与が始まる段階になると次は看護師の出番だ。発熱などの有害事象発現時における対応について患者が理解できているかどうかを再確認しながら治療の準備を進めていく。そこで発揮されるのが、看護師ならではの視点やコミュニケーション力である。

患者の遠慮もあり医師は有害事象を過小評価しがち「目と耳を増やす」ことで患者の実態が反映される

ICIや化学療法の有害事象の早期発見・早期対応において重要なのは「目と耳を増やすこと」だと松本医師は強調する。
「医師が一人で患者さんの話を聞いているとどうしても漏れが出てきますし、不安が強かったりしてコミュニケーションの難しい方もいます。一般に、有害事象の評価は医師一人ではどうしても過小評価しがちです。複数の職種で見た方が患者さんの実態を反映しやすいので、患者さんにとっても大きなメリットがあります」

目と耳を増やすことの重要性は、たとえばこんな場面にも現れてくる。角木看護師は看護師のアプローチについてこう話す。

「患者さんは何かの症状があったとしても、医師に伝えたら愚痴を言っていると受け取られないか、忙しい診療時間の邪魔をしてしまうのではないかと考えてしまいがちです。ですから、症状については私たちから具体的に尋ねることが大切です。とくに『しびれ』の症状を我慢してしまう方は少なくありません。診察時に主治医に言えなかったが、実はしびれがあることがわかった場合、情報は主治医と共有しますが、患者さんにも『次の診察のときに、しびれが強くなっている状況を伝えてください』とお願いしています。患者さんの伝える能力は、主治医との関係性にも左右されるため、看護師としてそこをサポートしたいと思っています」

一方、薬剤師の視点として、大原薬剤師は有害事象の聞き取り方や患者との信頼関係を重視しているという。
「有害事象については問診票を用いて一つずつ確認し、最後に『他に何かありますか?』とオープンクエスチョンで聞くようにしています。薬剤師がいかに患者さんの状況を聞き出せるかが重要ですので、患者さんが気軽に話しやすい関係になれるように心がけています」

また、同院には看護師による「サポートケアチーム」が存在する。緩和ケアに専任されているわけではないが、ICI投与や化学療法を受ける患者の精神的なサポートなどを行っている。松本医師は言う。
「サポートケアチームの看護師は5、6名いて、こちらから依頼することで、診察時に同席して一緒に患者さんの話を聞いてもらえます。とくに、診察でショックを受けるようなワードが出ると、それが気になってその後の説明が全く頭に入ってこない場合もあります。そういう場合には診察後に看護師が再度説明する、といったサポートもしてもらえるので非常に助けられています」

ありふれた症状がirAE発見の糸口になるため患者との連絡の閾値を低く設定することに注力

外来でICI投与や化学療法を受ける患者の場合、最も問題になるのは自宅で有害事象の疑われる症状が現れた際の対応だ。とくに、ありふれた症状が出た場合、患者・家族は病院に連絡すべきかどうか迷うことも少なくない。

その一つが「倦怠感」「だるさ」といった漠然とした症状である。
「倦怠感やだるさは甲状腺機能低下などirAEの症状の一つですが、それは化学療法によるものだから仕方ないと捉えている方が多く、ICIのirAEにはつながりにくいのです。だるいとか、なんとなく気力が低下するといった漠然とした症状も逃さずに伝えてほしいのですが、難しい場合も少なくありません」と角木看護師。

松本医師も「ICI投与時にはだるさの鑑別診断はきわめて重要で大きな課題」と指摘する。
「だるさを呈するirAEは甲状腺機能低下、副腎皮質機能低下、1型糖尿病など多岐にわたります。さらに、腹痛や下痢・血便がなく、だるさが最初に現れる腸炎もありますし、肺炎を起こしていても咳や呼吸苦・発熱はなく、だるさだけを感じる場合もあります。重症筋無力症や心筋炎も同様です。ですから、患者さんがだるさを感じた場合にいかに私たちに伝えていただけるかが重要です。ここでも『目と耳を増やす』ことが早期発見の糸口になります」

ありふれた症状がirAEの兆候である可能性があることを患者に知っておいてもらうことも重要だ。そこで、松本医師は「患者さん本人・ご家族からの連絡の閾値を低く設定するように注力している」と言う。
「患者さんやご家族に『こんなことで連絡してよいのか』と思わせてはいけませんし、もちろん我々医療者が絶対にそう言うべきではありません。できるだけ患者さんとメディカルスタッフとの『接点を増やす』ことが必要です。医師に連絡することのハードルが高ければ、外来の看護師さんや薬剤師さんに伝えてもらってもいい。患者さん本人とご家族が抱え込まないでほしいのです」

自宅での有害事象発現時の対応については、緊急連絡時のリーフレットなども活用して(図7)、少しでも気になる症状があれば躊躇せずに病院へ連絡するよう強調して伝えている。また、治療終了後にirAEが出現する可能性もあるので、その点も患者にしっかり情報提供するようにしているという。

図7 緊急連絡に用いるリーフレット

【POINT】緊急連絡先を記載したリーフレットを渡すことにより、患者や家族が連絡しやすくしている

提供:兵庫県立がんセンター(2022年2月現在)

また、同センターでは患者の変化をキャッチするための有用なツールとして「治療日誌」を活用している(図8)。
松本医師は診察の際に、患者自身が書いた治療日誌に目を通しながら話を聞くようにしているという。自由記述の欄に、本当に困っていることや本音など患者の実態が書かれていることも多い。

図8 治療日誌

【POINT】日常生活の中で記載された項目の中に、大事なポイントがある

キイトルーダ® 治療日誌:<乳癌>キイトルーダ®・化学療法併用治療

「診察時には『なんともないです』という方も多いですし、患者さんはどうしても長期にわたって最も気になっていることだけを訴えがちです。しかし、それは医学的には重要性が低いこともある。むしろ、日常生活の中で記載した治療日誌の中に大事なエピソードが埋もれていることも少なくありません」(松本医師)

ICIと化学療法併用時には有害事象の鑑別が必要になる

ICIと化学療法の併用により、irAEマネジメントは複雑化する。併用時に最も重要になるのは、有害事象がどちらの薬剤によるものかを鑑別することである。

松本医師は、鑑別診断のポイントについて次のように説明する。
「併用する化学療法の特性によって鑑別の注意点は異なりますが、まず問題になる症状の一つは『発熱』です。プラチナ製剤の併用時に発熱があった場合、化学療法による発熱性好中球減少かirAEかを見極める必要があります。一方、タキサン系の主な有害事象は末梢神経障害で患者さんはしびれを訴えますが、irAEのニューロパチーでもしびれが現れます。とくに『普段と違うしびれ』を訴える場合はirAEを疑う必要があります。また、同じタキサン系で肝障害が起こることがありますが、irAEも含めて疑うべきでしょう」

また、プラチナ製剤の過敏性反応についても注意が必要である。

松本医師によると「化学療法によって臨床上の特徴は違う」と言う。
「タキサン系の過敏性反応は初めて投与した場合に起こるstandard infusion reactionが多いですが、プラチナ製剤では反復投与後に生じるケースがほとんどです。注意が必要なのはプラチナ製剤投与時の過敏性反応です。発症初期は吐き気や腰痛、背部痛など一見アレルギーとは無関係と思われる症状から始まる場合もあり、非典型的所見が典型的です。しかし、急速に重症化することもありアナフィラキシーとしての対応が必要になります。仮に見た目が軽症でも単純に再開・再投与するのは禁忌です」

今後、乳癌に対するICIと化学療法の併用が拡大していくにつれて、irAEマネジメントはますます重要度を増していくものと思われる。同センターでは、有害事象による急変時のシミュレーション・トレーニングを定期的に行うなどスキルアップに取り組む。看護師は「抗がん剤Ⅳナース」の認定を受け、院内での認定は1年ごとの更新制度によりスキルの維持を図る。外来の患者を継続して見ている薬剤師は「外来がん治療認定薬剤師」の資格をもっているが、今後は新人教育などを通して薬剤師全体のレベルアップを目指すという。

irAEマネジメント Tips&Traps

[早期発見のポイント]

  • 一人ひとりの患者にかかわるメディカルスタッフの目と耳を増やし、各専門性に応じてさまざまな角度からアプローチする
  • 有害事象の早期発見のためには患者・家族からの連絡の「閾値を下げること」が大切
  • 患者自身が記入した「治療日誌」に目を通しながら患者の話を聞いて、有害事象発見の手がかりを見つける

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