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Medical Education
講演会記録集
胸膜中皮腫の診断~初診から生検そして病理まで~
2025年7月16日(水)19:00~20:30
インターネット講演会
主催 MSD株式会社
メディカルアフェアーズオンコロジー
座長/演者:兵庫医科大学病院 呼吸器内科 主任教授
木島 貴志 先生
演者:兵庫医科大学病院 呼吸器外科 准教授
橋本 昌樹 先生
演者:神戸大学大学院医学研究科 地域社会医学・健康科学講座 地域連携病理学分野 特命教授
河原 邦光 先生
中皮腫は体腔表面や臓器を覆う中皮に発生する悪性腫瘍のことであり、胸膜中皮腫はその1つに分類されています。発症原因の1つとしてアスベスト(石綿)が知られており、曝露後40年前後の潜伏期間を経て発症することが報告されていることから、本邦において、今後、患者数が増加すると考えられています。
今回は胸膜中皮腫の診断をテーマとして、「初診」から「生検」そして「病理」までを解説します。
講演1:
胸膜中皮腫を疑うポイント~初診から生検まで~
兵庫医科大学病院 呼吸器内科
主任教授
木島 貴志 先生
胸膜中皮腫の疫学と病態
中皮腫は、体腔表面や臓器を覆う中皮に発生する悪性腫瘍で、胸膜中皮腫、腹膜中皮腫、心膜中皮腫、精巣鞘膜中皮腫に分類され1)、その頻度はそれぞれ85~90%、10~15%、1%以下、1%以下と、胸膜中皮腫が多くを占める2-4)。中皮腫の主な原因物質は石綿(アスベスト)であるが、エリオン沸石(エリオナイト)、BAP1遺伝子変異も原因となる5)。
石綿は、古代から知られていたと推測され、「竹取物語」には石綿を思わせる記述がある。また、わが国における石綿の最初の利用は、平賀源内による火浣布の試作である。
石綿は、天然の繊維状ケイ酸塩鉱物の総称で、直径0.02~0.3μmの非常に微細な繊維で、白石綿、赤石綿、青石綿などがあるが、青石綿の発がん性が最も高い6)。
石綿による中皮腫の発症機序は、以下のように考えられている。吸入された石綿はマクロファージに貪食され、マクロファージのアポトーシスを誘導するが、石綿は完全には分解除去されずに蓄積する。また同時に石綿は、マクロファージ内で炎症反応のセンサーとして機能するNLRP3インフラマソームに感知され、最終的にIL-1βの産生が誘発され、炎症を惹起する。さらに、石綿の刺激を受けた中皮細胞は、HMGB1を遊離させ、このHMGB1がTLR4を介し、pro-IL-1βの産生を促進し、さらに石綿によるインフラマソームを介したcaspase-1の活性化がpro-IL-1βから成熟型のIL-1βへの転換と分泌を促し、炎症の負のスパイラルが起こることが報告されている7)。実際に、IL-1β陽性の中皮腫患者の予後は良くない傾向がみられている7)。また我々は、炎症下における中皮腫細胞には、膜抗原CD26が発現し、このCD26が中皮腫細胞の幹細胞化に関与することを実験的に示している7)。
NLRP3インフラマソームを介した炎症惹起に伴う疾患は、外因性インフラマソーム病と呼ばれ、化学的細胞傷害因子には石綿、尿酸ナトリウム結晶などが、物理学的細胞傷害因子には紫外線、放射線があげられる8)。
石綿と肺疾患の関連性については、その曝露量・曝露時間が知られている。良性石綿胸水、胸膜プラーク、びまん性胸膜肥厚は、比較的低曝露量で10~35年で発症する。石綿肺は高曝露量で15~20年で発症し、肺癌は高曝露量で20~30年で発症する。中皮腫は、低~高曝露量で30~40年で発症するため9)、中皮腫患者には高齢者が多く、わが国における中皮腫患者の年齢分布は、70歳以上が61.6%、60歳以上が26.5%を占める。また、職業性曝露による発症が多いことから78.8%が男性患者である10)。2023年の中皮腫による年間死亡者数は、1,595人(男性1,312人、女性283人)である11)。
胸膜中皮腫の診断
胸膜中皮腫の発見の契機は、無症状時の健康診断によることもあるが、息切れ、胸痛、咳嗽の症状を訴えて受診して発見されることが大多数である(図1)10)。また中皮腫は炎症性の腫瘍であることから、倦怠感、貧血症状、食思不振、体重減少、持続的発熱などの非特異的な慢性炎症に伴う、いわゆる、がん悪液質のような症状が出てくることが多い12-14)。
息切れ等の呼吸困難の症状は、胸水により正常な肺が圧迫されることに起因すると考えられる。実際、診断時に2/3の中皮腫患者で胸水が見られている15)。また胸痛については、腫瘍の胸壁への浸潤、腫瘍が肋間神経などを破壊・圧迫することにより発現すると考えられる。
患者が来院し、中皮腫が発見されるタイミングで最も多いのは、まさに、胸水の増加に伴う胸部圧迫感、労作時呼吸困難、咳嗽が発現する時期、および腫瘍が胸壁への浸潤し、胸痛が発現する時期である。
以上のような胸膜中皮腫を疑う症状がみられた場合の診断フローチャートを図に示す(図2)。まずは問診で、アスベスト曝露歴(職業歴、居住環境)を聴取する。次に、画像診断により胸水貯留や胸膜の腫瘍性肥厚の有無を確認する。胸水貯留があれば治療を兼ねて穿刺により胸水を採取して胸水細胞診を行い、必要に応じてセルブロックを用いた診断に供する。次に、生検を行うが、CTガイド下針生検を行う場合もあるが、原則として胸膜鏡下胸膜生検を実施する。
胸膜中皮腫の画像診断においては、現在のガイドラインでは、存在診断において胸部造影CTを行うことが強く推奨されている。一方、CTに加え胸部MRIおよびFDG-PET/CTは行わないことが強く推奨されている13)。胸膜病変の良悪性の鑑別についても、上記と同様の推奨が行われている13)。
胸膜中皮腫の確定診断には、生検による病理学的診断が必要である。ガイドラインにおいては、正確な病理診断が行えるよう、全身麻酔下での外科的胸膜生検により、十分な量の生検検体を得ることを強く推奨している。ただし、外科的胸膜生検の適応がない腫瘤形成のある症例においては、CTガイド下針生検をまず行うよう強く推奨されている13)。末梢血中あるいは胸水中の腫瘍マーカーやヒアルロン酸の測定は、確定診断に用いないことが強く推奨されているが、病状の経過や、疑いなどの目的で補助的に使うことは有用と考える。例えば、末梢血中マーカーのSMRPの感度は19~68%、特異度は88~100%である一方13)、シフラについては肺癌患者の40%以上で増加するため13)、感度、特異度は高くはないが、初めから数値が高い場合は、治療の効果をフォローする場合に有用である。CEAは、肺腺癌でも上昇するマーカーであるため、陰性マーカーとして有用である16)。また、胸水ヒアルロン酸の測定は中皮腫を疑う場合には、補助的に使用することは有用である(≧100,000ng/mLで中皮腫疑い)13)。
胸膜中皮腫の病期診断については造影CTを行うことが強く推奨されている。また、造影CTに加えMRIを行わないことが強く推奨されている。ここまでは、存在診断、良悪性の鑑別における推奨と同じである。一方で、病期診断に限っては造影CTに加えFDG-PET/CTを行うことが強く推奨されている13)。ここを取り違えないことが重要である。
まとめ
以上をまとめると、(1) 胸膜中皮腫の主たる原因は石綿曝露であり、(2) マクロファージで分解除去しきれないアスベストがインフラマソームを介して炎症を起こし、マクロファージと中皮細胞の相互作用により炎症性発がん、悪性度の増強が起こる、(3) 胸膜中皮腫は希少がんであるが、年間の死亡者数は約1,600人にのぼる、(4)職業曝露があるかどうか、環境曝露があるかどうかの問診が非常に重要である、(5) 存在診断には胸部の造影CTが強く推奨される、(6) 病期診断にはFDG-PET/CTの追加が強く推奨される、(7) 確定診断のためには、胸腔鏡下の外科的胸膜生検が第一優先である、(8) 確定診断には血液中/胸水中マーカーは用いない。
参考文献
1)がん情報サイト悪性中皮腫の治療(成人)(PDQ®)2025年8月13日閲覧.
2)国立がん研究センター希少がんセンター. 中皮腫について. 2025年9月27日閲覧.
3)日本臨床腫瘍学会編・新臨床腫瘍学改訂第6版, p391, 南江堂, 2021
4)Gemba K, et al. Cancer Sci, 103(3) : 483-490, 2012.
5)Carbone M, et al. CA Cancer J Clin. 2019 ; 69(5) : 402-429.
6)財団法人日本石綿協会 編. せきめん読本. 財団法人日本石綿協会. 昌文社, 1996.
7)Horio D, et al. Cancer Sci. 2020 ; 111(8) : 2895-2906.
8)増本純也. 日本臨床免疫学会会誌. 2011; 34(5) : 346-354.
9)中野孝司. CT検診, 2007 ; 14(2) : 1881-1965.
10)独立行政法人環境再生保全機構. 令和5年度中皮腫登録事業報告書, 2025.
11)厚生労働省 人口動態統計(確定数), 2025年8月13日閲覧.
12)日本肺癌学会. 第8章 胸膜中皮腫, Q79. WEB版患者さんと家族のための肺がんガイドブック2024年版, 2025年8月13日閲覧.
13)日本肺癌学会 編. 肺癌診療ガイドライン-胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む2025年版, 2025. 2025年11月25日閲覧.
14)The International Association for the Study of Lung Cancer; Staging Cards in Thoracic Oncology, 9th Edition., 2025年8月13日閲覧.
15)西英行. ほか. 肺癌. 2009 ; 49(7) : 999-1005.
16)日本石綿・中皮腫学会 / 日本肺癌学会編中皮腫瘍取扱い規約第2版. 金原出版, 2025
講演2:
胸膜中皮腫の診断方法~生検のrisk/benefit~
兵庫医科大学病院 呼吸器外科
准教授
橋本 昌樹 先生
本講演においては、胸膜中皮腫の生検の実際について解説する。
診断の流れ、診断方法
わが国の肺癌診療ガイドラインにある「胸膜中皮腫診療ガイドライン2025 年」では、確定診断のための胸膜採取法について、「全身麻酔下での外科的胸膜生検により、十分な検体量を採取するよう強く推奨する。推奨の強さ︓1、エビデンスの強さ︓C」と記載されている1)。確実に診断を行う上で、基本的に外科的胸膜生検はGolden Standardと考えられる。
胸膜生検として、CT/エコーガイド下針生検(針生検)、局所麻酔下胸腔鏡検査(局麻VATS)、全身麻酔下(全麻)VATSがあげられるが、それぞれにメリットとデメリットが存在する。
針生検はCT/エコーを見ながら針を穿刺して腫瘍細胞を採取する方法である。この手法では侵襲性は小さい一方、腫瘍容量がある程度以上ではないと対象とならない。局麻VATSは、局所麻酔下鎮静の状態で胸に作業用ポートを挿入し、そのポートから胸腔鏡、内視鏡を挿入し、腫瘍を鉗子でつまんで採取する方法である。この手法では、採取可能な検体量には限界があり、胸水が中等量以上貯留していないと施行困難である。演者らは、局麻VATSで腫瘍塊の採取はできたものの、検体が断片的で周囲組織とのオリエンテーションが不明であったため、確定診断が困難であった症例に遭遇した。全麻VATSでは、採取可能な検体量は多く、壁側胸膜を脂肪層なども含めて全層で採取できるため、組織のオリエンテーションも明瞭な状態で検体の採取が可能であり、正確な診断をするための助けとなる(図1)(図2)。一方で、侵襲性は他の生検方法と比べると大きく、生検後のリスク(合併症、生検部への腫瘍浸潤等)も高い。
診断のための工夫
診断精度を高めるための工夫として、PETによるTargetの把握、免疫組織化学染色やFISH法の活用、細胞診(セルブロック)の併用の3点をあげたい。
「胸膜中皮腫診療ガイドライン2025年版」では、「胸膜病変の良悪性の鑑別に、胸部単純/ 造影CTに加えFDG-PET/CTを行わないことを強く推奨する〔推奨の強さ:1, エビデンスの強さ:C〕」と記載されているが1)、胸膜癒着療法後等胸腔内へのアクセスが困難な事例において、生検のTargetを把握する際に有用であった事例も経験している。
免疫組織化学染色やFISH法については、BAP1蛋白の核からの欠失(免疫組織染色によるBAP1 lossの検出)およびMTAP蛋白の細胞質からの消失(免疫組織染色によるMTAP lossの検出)の評価や、FISH法によるCDKN2A遺伝子の欠失の評価は、反応性中皮過形成と上皮様中皮腫の鑑別において有用である。CDKN2AのFISHでは、ホモ接合欠失では10%以上で中皮腫と診断可能と言われている。さらに上皮様では60%~70%、肉腫様では90%~100%でホモ接合欠失が観察されると言われている。これらの遺伝子変異に基づく補助アッセイ検査は、「胸膜中皮腫診療ガイドライン2025年版」においても強く推奨されている1)。
セルブロックは、比較的簡単に作成でき、胸水中に異型細胞が存在していれば診断できる可能性があり、組織診と違いtargetを絞る必要がない点がメリットである。一方、胸水中に腫瘍細胞が少ない、もしくは出ていない場合や、血性胸水などで血性成分が多い場合は偽陰性となることがあるので注意が必要である。具体的には、肉腫様中皮腫や、炎症合併症例では、セルブロックによる診断は難しいとも言われている。なお本法は、「胸膜中皮腫診療ガイドライン2025 年版」においても強く推奨されており1)、保険適応も可能である。
診断における注意点や問題点
中皮腫では生検部に腫瘍浸潤が起こりやすい点に注意が必要である。海外の報告では、胸腔鏡手術、開胸手術による生検後の生検部における腫瘍浸潤での局所再発は、開胸手術で24.0%、胸腔鏡手術で16.0%、胸腔穿刺で3.6%、針生検で4.5%であったとされている2)。一方、当科において詳細に検討したところ、手術による生検症例の57%で、生検部に腫瘍浸潤を認めている3)。マルチポートで生検をすると、腫瘍浸潤した生検部をすべてくり抜く必要があり、胸壁欠損も多くなることから、生検時にできるだけ創部を作らないことが重要である。そこで、できるだけ1ポートで生検を行うべきである。生検採取においては脂肪層を含めた全層生検を心がけ、サンプリングエラーを考慮して数か所採取するようにしている。また、根治手術を行う際には生検部位に浸潤した腫瘍を除去することを考え、手術時の皮切ライン上にポートを設定(第6-7 肋間 前/中腋窩線部)するようにしている。
胸膜生検は診断のための手術であり、「診断がついて当たり前」「無事に終わって当たり前」と、低侵襲な手術と思われることが少なくない点にも注意が必要である。すなわち、失敗が許されない。参考までに、海外における検討では、514例の胸膜生検後の死亡率(30/90日)は2.3%/6.4%、合併症率は(軽微/重大)は7.8%/3.6%であった4)。当科においても、肺損傷(エアリーク、皮下気腫含む)、創部感染症、再膨張性肺水腫などを経験している。皮下気腫では、胸壁で広範囲に腫瘍が浸潤する可能性がある。再膨張性肺水腫は稀な事象であるが、大量の胸水(≧3L)が認められる症例では、胸水排液後に肺が膨張して再膨張性肺水腫が惹起され、急激に呼吸状態が悪化することもあり注意が必要である。本事象は、事前にドレナージを施行することで予防可能である。
また、全麻VATSによっても確定診断に至らないことがある点にも注意が必要である。当科における検討では、中皮腫を疑い胸膜生検を施行した400症例中、中皮腫と確定した症例が267例、中皮腫以外と診断した症例が31例、慢性胸膜炎と診断した症例が102例で、慢性胸膜炎診断例のうち中皮腫が疑わしい症例が11例認められた。これらの11例を再生検したところ、10例が中皮腫と診断された5)。この10例が診断できなかった理由は、超早期症例(n=4、胸腔内に明らかなtargetが存在しない、あるいは検体に異型中皮細胞を認めるも間質浸潤を認めず)、炎症の存在(n=4、強固な癒着、膿胸のため評価が困難)、Desmoplastic type(n=2、細胞数が少なくサンプリングエラーが起きやすい)であった。ただし、MTAP、BAP1、FISHといった現在の技術を用いることができていれば、これらの症例でも診断がついた可能性もある。このため、疑わしい症例ではフォローが必要であると考えられる。
胸水を用いた診断の研究
先述の通り、胸膜生検にはリスクが存在する3,4)。そこで演者らは、胸水検体のみで診断ができないかと考え、当科において後ろ向きに検討したところ、胸水細胞診の陽性的中率は100%(18/18例)であったため6)、多施設前向き臨床研究である「胸水検体による悪性胸膜中皮腫確定診断の可能性確認試験(MesoCyto study)」を施行した7)。本研究では、中皮腫疑い症例に対し、胸腔穿刺による胸水検査にて胸水細胞診・セルブロック法を施行後、胸膜生検による全層生検を施行し、主要評価項目を胸水検査の特異度100%および胸水検査の陽性的中率100%の実現とした。その結果、胸水検査で中皮腫と診断された29症例は、すべて胸膜生検でも中皮腫と診断され、胸膜生検で中皮腫が否定された症例は、すべて胸水検査でも否定された(図3)。このように、十分に選択された一部の症例では、胸水検査のみでも診断の可能性が高いことが示唆された。
組織型ごとの胸水生検での診断的中率は、上皮様で72.2%(26/36例)、二相性で75.0%(3/4例)、肉腫様で0%(0/0例)であった。このことは、肉腫様では胸水産生が少ないため診断が困難であることや血性胸水では偽陰性となりやすいことを反映しているためと考えられる。
死亡例は認められなかったが、有害事象発現率は胸腔穿刺で0%であったのに対し、胸膜生検では14%であり、胸膜生検にも低いながらリスクが存在することが示された。
診断に関わる先生方にお伝えしたいこと
診断に関わる先生方にお伝えしたいことは、以下の5つである。
(1) 症例に応じて適切な生検方法を選択いただきたい。例えば、局麻VATSでは採取できる検体・診断能力に限界がある。
(2) VATS生検を行う場合は、生検後の手術や生検部への腫瘍浸潤を考慮して可能な限り1ポートで施行いただきたい。PS低下症例、炎症が強い症例などでは有害事象に注意が必要。
(3) BAP1、MTAP、p16FISHなどの分子生物学的診断が進歩しており、特にMTAP、BAP1染色は有用である。
(4) 中皮腫の診断に至らない症例でも、中皮腫が疑わしい時にはフォローアップおよび、病理医とのdiscussionが必要。
(5) 胸水セルブロックのみでも一部の症例では診断が可能。
最近のTOPICS
胸膜中皮腫の新しい病期分類について紹介する。Union for International Cancer Control(UICC)の従来の病期分類(TNM 第8版)における臨床病期T因子(周辺組織への浸潤の有無)は、予後との相関性が少ないといわれる一方、腫瘍容量8)や胸膜肥厚長9,10)が予後予測に有用との報告がある。そこで、2025年1月からこれらのエビデンスを考慮したTNM 第9版が使用されることとなった11)。
TNM 第9版では、T因子は胸膜肥厚長に基づき決定される。すなわち、胸腔を肺尖から大動脈弓、大動脈弓から左房、左房から横隔膜の3領域に分割し、各領域の縦隔組織や胸壁からの垂直距離で最も大きい箇所を計測する。そのうえで、3つの計測値の合計である総和最大胸膜厚(Psum)をもとにT因子を決定する。また、CTの矢状断により最大葉間胸膜厚(Fmax)も測定する12)。これらに基づく主な判定基準は、T1が「同側胸膜にPsum≦12mmの腫瘍があるが、葉間胸膜には進展がない(Fmax≦5mm)。」T2が「同側胸膜にPsum≦12mm の腫瘍があり、葉間膜浸潤(Fmax>5mm)、縦隔脂肪組織浸潤、孤立性胸壁軟部組織浸潤、のいずれかが該当、あるいは、同側胸膜に12mm<Psum≦30mm の腫瘍がある。」T3が「同側胸膜にPsum>30mm の腫瘍がある。」などとなっている。
参考文献
1)日本肺癌学会 編. 肺癌診療ガイドライン-胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む2025 年版 . 2025年11 月25 日閲覧.
2)Agarwal PP, et al. Radiology. 2006 ; 241(2) : 589-594.
3)Hashimoto M, et al. Cancers (Basel). 2022 ; 14(18) : 4356.
4)Iaffaldano A, et al. J Clin Med. 2021 ; 10(9) : 1973.
5)Hashimoto M, et al. Gen Thorac Cardiovasc Surg. 2020 ; 68(8) : 820-827.
6)橋本昌樹,ほか.肺癌. 2020 ; 60(7) : 972-978.
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8)Rusch VW, et al. Ann Thorac Surg. 2016 ; 102(4) : 1059-1066.
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10)Hashimoto M, et al. J Thorac Cardiovasc Surg. 2019 ; 157(1) : 404-413.
11)Brierley JD, et al. (eds.). TNM Classification of Malignant Tumours, 9th ed. JOHN WILEY & SONS, LTD., 2025.
12)Gill RR, et al. J Thorac Oncol. 2024 ; 19(9) : 1310-1325
講演3:
中皮腫の病理組織診・細胞診~最新の中皮腫瘍取扱い規約をふまえて~
神戸大学大学院医学研究科 地域社会医学・健康科学講座 地域連携病理学分野
特命教授
河原 邦光 先生
中皮腫の病理組織診
WHOの腫瘍分類が、第4版(2015)から第5版(2021)1)に改訂されたことに伴い、わが国の中皮腫瘍取扱い規約が2025年2月に改訂され、病理組織診断・細胞診断の新方針が示された2)。そこで、この新方針のポイントについて胸膜中皮腫を中心に紹介する。
中皮腫瘍の組織分類に関する新方針 2)
新規約において中皮腫瘍は“中皮腫”と“ 良性および前浸潤性中皮腫瘍”に分けられた。なお、本規約から“悪性中皮腫”は“中皮腫”と呼ぶことに変更されている。また、中皮腫の組織亜型の上皮型、肉腫型および二相型中皮腫は、それぞれ上皮様、肉腫様、二相性中皮腫に変更された。中皮腫はびまん性中皮腫、限局性中皮腫に二分され、上皮様、肉腫様、二相性中皮腫に分類されることとなった。
前浸潤性中皮腫、高分化乳頭状中皮腫瘍、アデノマトイド腫瘍については、“良性および前浸潤性中皮腫瘍”に分類されることになった。高分化乳頭状中皮腫瘍については、閉経前の女性の腹膜に好発するが、腹膜、傍精巣では良性腫瘍として扱われることから、呼吸器内科・外科以外の臨床科の先生との疾患の良・悪性の認識に違いがあることには注意が必要である。
上皮様中皮腫の分類および鑑別に関する新方針2)
上皮様中皮腫は上皮様性の形態をとったびまん性の中皮腫であり、細胞表面がヒアルロン酸で覆われている。
今回の規約の改訂で、予後に関わる組織構築パターン、細胞学的特徴、間質の特徴について記載することになった。
組織構築パターンには、腺管乳頭状(最も多いパターン)、索状、微小乳頭状、充実性、アデノマトイドに分類され、微小乳頭状および充実性のパターンを示すものは予後不良であり、記録が望まれる(図1)。
細胞学的特徴については、淡明細胞、ラブドイド、脱落膜様、小細胞、印環細胞、多形性、リンパ組織球様に分類され、ラブドイドと多形性については予後不良であり、記録が望まれる(図1)。
間質の特徴では上皮様中皮腫の5~10%は、粘液腫様間質を有し、比較的予後良好であるため、記録が望まれる(図1)。
また本規約から、胸膜上皮様中皮腫に新たにグレード分類が記載された。基本的に核異型スコアと核分裂像スコアを考慮し、核グレード(I~ III)を算定する。ここに壊死のありなしを加えて、最終的にLow-gradeとHigh-gradeと分けることとなった。グレード分類は予後に関連するため、臨床的には記載が求められる。
胸膜上皮様中皮腫と鑑別を要する病態として、腺癌(腺癌の胸膜転移、末梢性肺腺癌)および反応性中皮過形成があげられる。
胸膜上皮様中皮腫と腺癌との鑑別では、単独で確定できる免疫組織化学(IHC)のマーカー(抗体)は存在しないため、2種の中皮腫陽性マーカーと2種の癌腫陽性マーカーのうちの、前者がいずれも陽性で、後者がいずれも陰性である場合、上皮様中皮腫の診断が可能となる。中皮腫陽性マーカーには、5つのマーカー(Calretinin、WT1、Podoplanin(D2-40)、Cytokeratin5/6、HEG1)が記載され、このうちCalretinin、WT1、Podoplanin(D2-40)が重要で、特にCalretininは陽性率が95%と高く、強く推奨されている(近年、HEG1も有用であることが明らかになっている)。癌腫陽性マーカーには、5つのマーカー(Claudin-4、CEA、TTF-1、napsinA、p40)が記載され、このうちClaudin-4、次いでCEA、TTF-1が有用である2)。同様に、環境再生保全機構リーフレットの石綿健康被害救済制度医学的判定の考え方においても、中皮腫陽性マーカーではCalretininが強く推奨されており、癌腫陽性マーカーではCEAとClaudin-4が強く推奨されている3)。
反応性中皮過形成との鑑別では、細胞密度および補助的検査が重要である。反応性中皮過形成では、細胞密度が高い場合もあるが、胸膜表面あるいは浅層に限局している点が大きな特徴である。一方、上皮様中皮腫では、細胞密度は高いが限局することはなく、胸膜全層に広がる。このため、生検採取の際は、胸膜表面だけでなく、胸腔から胸壁にかけて、胸膜全層をふくんだ胸膜検体採取が望ましい4)。
ただ近年、反応性中皮過形成では認められないIHCにおけるBAP1の消失(上皮様中皮腫で60~70%)ならびにMTAPの消失(同50%)、FISHにおけるCDKN2Aのホモ接合欠失(同70%)の判定などの補助的検査が利用可能となり2)、表層あるいは浅層の細胞のみでも診断できる可能性がかなり高くなってきたため、病理組織診断の負担も軽くなる傾向にある。
なお、核分裂像、細胞異型は、理論上は悪性腫瘍である上皮様中皮腫でより目立つと考えられるかもしれないが、実際には反応性中皮過形成の方が顕著であることが少なくない。そのため、中皮腫瘍取扱い規約では、これらの所見は鑑別において有用ではないとされている。
肉腫様中皮腫の所見に関する新方針2)
肉腫様中皮腫は、定義上は紡錘細胞の形態を示すびまん性中皮腫であり、紡錘形細胞肉腫に類似する場合と、核の多形性が目立つ多形性肉腫に類似する場合がある(図2)。
肉腫様中皮腫の鑑別診断では、胸壁等の近接臓器から発生した肉腫・紡錘細胞癌の直接進展、転移性肉腫、そして細胞成分の多い胸膜線維症の3病態との鑑別診断が必要になる。肉腫様中皮腫と他の肉腫との鑑別に有用なマーカーとして、AE1/AE3、CAM5.2、D2-40、WT-1、Calretininがあげられるが、中皮腫陽性マーカーには決定的なマーカーは存在しないと考えられてきた5)。一方、近年ではFISHにおけるCDKN2Aのホモ接合性欠失が肉腫様中皮腫の90~100%に認められるため補助検査として有用であると考えられている。
中皮腫瘍取扱い規約第2版では、特殊な形態を示す肉腫様中皮腫として、線維形成性中皮腫、異種性成分を含む中皮腫、移行性所見を有する中皮腫、多形性所見を有する中皮腫、リンパ組織球様所見を有する中皮腫の5つがあげられている。このうち特に予後不良となるのは、線維形成性中皮腫、移行性所見および多形性所見を有する中皮腫である。
線維形成性中皮腫では、腫瘍の50%以上の領域で腫瘍細胞の密度の低い密な膠原線維組織を有するのが特徴である。脂肪織への浸潤の有無が鑑別に重要であるが、小生検材料では診断が難しい。また、腫瘍の50%以上の領域が膠原線維組織であることを生検で確定することは困難であるため、生検組織を用いた診断名は“線維形成性所見を有する中皮腫”とし、“線維形成性中皮腫”は手術検体を用いた場合の診断名とされた。胸膜炎後瘢痕や線維性胸膜炎にも類似し、これらとの鑑別が難しく、線維性胸膜炎との鑑別は特に重要である。まず、線維性胸膜炎では、紡錘形細胞が増殖するところが限局しており、zonationがみられる。一方、線維形成性中皮腫では、このzonationがないのが特徴である。核分裂像、細胞異型、高い細胞密度といった悪性腫瘍に特徴的な所見は、線維性胸膜炎にもみられることが多い為、これらの所見は鑑別には有用ではない。胸膜肉腫様中皮腫における補助的検査としては、IHCにおけるMTAPの消失(60-70%程度、FISHにくらべて低感度である点が難点)、FISHにおけるCDKN2Aのホモ接合性欠失(90~100%)が有用である。
移行性所見を有する中皮腫は、上皮様中皮腫と肉腫様中皮腫の中間的な組織像を示し、肉腫様中皮腫に分類されており、非常に予後不良である2)。図3に示すように、上皮様中皮腫の特徴であるシート状配列を示すと同時に、肉腫様中皮腫の特徴である細長いふっくらした細胞から構成される所見を併せ持つ。これは、中皮陽性マーカーがびまん性に染まらないことが多く、低分化な上皮様なのか、あるいは肉腫様なのか、病理医を過去に悩ませてきた症例である。腫瘍細胞量が少ない場合には、判断は難しくなる。
新たな分類である前浸潤性中皮腫(Mesothelioma in situ : MIS)2)
新たな分類として加わったMISは、腫瘍性中皮細胞が胸膜表面を扁平あるいは立方状の腫瘍性中皮細胞が単層性に増殖する前浸潤性病変であり、間質浸潤は認めない。IHCにおけるBAP1、MTAPの発現消失、FISHによるCDKN2A遺伝子のホモ接合性欠失のいずれかが認められることが診断には必須である。
繰り返す胸水貯留があるが、胸腔鏡検査あるいは画像診断で腫瘍性病変が明らかではないことが定義であるため、診断には多職種の専門家による集学的な検討が必要になる。
また、5年間の経過観察で70%の症例が浸潤性中皮腫に進展すると言われている2)。
二相性中皮腫の病理診断に関する新基準2)
二相性中皮腫の従来の定義は、上皮様中皮腫と肉腫様中皮腫がいずれも腫瘍全体の10%以上を占めることとなっており、この診断名は主に手術材料で使用されてきた。すなわち、従来は生検では使用が難しかった。今回、生検組織での診断基準が設定され、それぞれの割合に関わらず上皮様中皮腫と肉腫様中皮腫の両者が認められれば、二相性中皮腫と診断することとなった。
中皮腫の細胞診の補助検査(ancillary technique)の実際
ここでは、特に補助検査に使用されるFISHによるCDKN2Aの評価、BAP1、MTAPの免疫細胞化学(ICC)について紹介する。細胞診断の意義について、2015年のInternational Mesothelioma Interest Group(IMIG)ガイドラインでは6)、「細胞診において、形態像・補助的技術の併用で、中皮腫が確認できれば、必ずしも生検による病理組織学的確認を必要としない」となり、細胞診での確定診断が可能となった。
補助検査ではセルブロック法の有用性が高く、特にICCにおけるMTAPおよびBAP1の消失の検討は、中皮腫と反応性中皮過形成の鑑別には有用である。ただし、MTAPは細胞診のスメア標本では実施できず、セルブロックのみでしか判定できないことに留意が必要である。
胸水セルブロックの利用の実際について紹介する。セルブロックのFISH法では、図5に示すように、9番染色体のセントロメアが緑に発色し、CDKN2A遺伝子のある9p21領域が赤に発色する。本法では、通常100個の腫瘍細胞をスコアするが、正常細胞では緑・赤のペアとなるが、ホモ接合性欠失では赤が2つとも欠失し、ヘテロでは赤が1つ欠失することが観察される。
最後に古典的な細胞診断の意義について紹介する。中皮腫の診断に役立つ細胞所見として、細胞集塊、Hump様突起を有する鋳型細胞、多核細胞などがあり、これらの所見は胸水細胞診標本において、しばしばみられる特徴的な所見である。近年、これらにおいてFISH上でCDKN2Aのホモ接合性欠失が高頻度に見られることが明らかになった。このことは、古典的な形態学的診断基準の確かさがゲノミックな検討で確認できたことを示唆しており、形態診断の意義を新たに示すものと考えられる。
参考文献
1)WHO Classification of Tumours Editorial Board. Thoracic Tumours. WHO Classification of Tumours, 5th Edition, Volume 5. WORLD HEALTH ORGANIZATION, 2021.
2)日本石綿・中皮腫学会/日本肺癌学会編. 中皮腫瘍取扱い規約 第2版.金原出版,2025
3)環境再生保全機構リーフレット.中皮腫.石綿健康被害救済制度 医学的判定の考え方. 2025年8月20日閲覧.
4)Churg A, et al. Am J Surg Pathol. 2000 ; 24(9) : 1183-1200.
5)Kushitani K, et al. Pathol Int. 2008 ; 58(2) : 75-83.
6)Hjerpe A, et al. Acta Cytol. 2015 ; 59(1) : 2-16.