取り組み事例レポート:浜松医科大学

(取材:2021年6月17日浜松医科大学医学部附属病院にて)

Index

> 看護師の協力で8~9割の症例で筋弛緩モニター装着が可能に

>「すべては患者さんのため」 筋弛緩モニター装着をルーチンワークに

>Summary 私たちの取り組みポイント


中島 芳樹 先生

権田 直美 看護師

高難度症例など多様なニーズに応えるためのスタッフ体制

中島先生 当院は、県内で唯一医学部のある大学の附属病院(特定機能病院)です。そのため手術内容は多岐にわたるとともに高難度の症例も多く、麻酔科では多様なニーズに応えられるよう、日々研鑽を積んでいます。病床数は613床、手術室は12室で、2019年度の手術件数は約7,600件でした。2020年度は新型コロナウイルスの影響から200件ほど減少したものの、月平均では600件程度という状況です。なお、2022年の1月には、手術室を4部屋増やす予定になっています。麻酔科医はICU担当も含め現在約40名ですが、看護師を含めてスタッフ体制の増員準備を始めているところです。

権田看護師 現在、手術室看護師は52名体制で勤務にあたっています。手術内容で変動はありますが、基本的には一部屋につき直接介助(器械出し看護)が1名、間接介助(外回り看護)が1~2名という体制をとっています。

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〔写真〕手術室看護師の協力を得て、手術開始に先立つルートの確保や他のモニターの装着と一緒に、筋弛緩モニターの装着を実施。

手術内容や患者背景などを考慮し状況に合わせて筋弛緩薬を投与

中島先生 私が医師になって30年以上経ちますが、最近の筋弛緩薬は作用発現や作用持続などの面でコントロールがしやすくなりました。ただ、一律に同様の投与をするのではなく、手術内容、患者背景や状況を考慮して、投与量や投与方法などを決定しています。例えば、脳神経外科の顕微鏡手術やダヴィンチ含め腹腔鏡下手術などは少しの体動も避けたいため、筋弛緩薬を持続投与することが多いです。その一方で、心疾患症例に対して血圧維持のために筋弛緩薬投与を調整するようなケースや完全な不動を必要としない場合は、必要に応じて反復投与を行うといったケースもあります。

看護師の協力により、8~9割の症例で筋弛緩モニター装着が可能に

中島先生 筋弛緩回復薬は、筋弛緩の深度と体重に応じて適正用量を投与すべきです。そのためには客観的な筋弛緩モニタリングが必須ですが、様々な理由からこれまで十分に実施できておらず、患者の臨床症状による判断を実施していました。加速度感知式筋弛緩モニターの装着率が低かった理由の1つは、近年の腹腔鏡下手術の増加が関係しています。腹腔鏡下手術では手がドレープで覆われているため、TOF刺激に対する測定結果に影響がある、反応が見えない、反応が悪いときにも付け替えが難しいという問題があったからです。

 ただ、当院の関連病院のある施設では、10年程前から看護師が麻酔導入時に筋弛緩モニターの装着を担っており、筋弛緩モニターの装着率が高いという状況がありました。より安全な手術環境のために、当院でも導入できないだろうかと以前から考えていたところ、 2021年4月に手術室の全モニターを一新することになり、手術室看護師の協力を仰ぎました。術前、看護師は心電図やパルスオキシメーターなどのモニターを装着していることから、それに合わせた筋弛緩モニターの装着を依頼したところ、快く引き受けてくれました。看護師の皆さんの協力のおかげで、現在、8~9割の症例で筋弛緩モニターが装着できています。なお、今回導入した筋電図感知式モニターは、刺激電極と感知電極が1枚の電極に収まっています。そのため、従来の加速度感知式モニターよりも装着が簡便になりました。

権田看護師 加速度感知式モニターは、貼付する方向が少しずれただけでも、うまく測定できないことがありました。筋電図感知式モニターはそのような難しさがなく、簡単に貼付できます。4月の導入時は特に研修も行わず、パッケージ裏面の手順を見ながら実践的に始まった状況でしたが、すぐスムーズに装着できるようになりました。ちょうど新卒で入った看護師もベテランの看護師も同時に始められたため、習熟度に差がつかず導入に際して良かった点だと思います。

 今では、手術開始に先立つルート確保や他のモニター装着と一緒に、筋弛緩モニター装着はルーチンワークの一環として定着しています。払い出しの際、必要物品と一緒に電極など一式がセットされているので、装着を忘れることはありません。

安全担保に欠かせない筋弛緩モニター 効率面への寄与も

中島先生 過去には筋弛緩モニターを使用していなかった症例で、残存筋弛緩が疑われた症例を経験しました。予想よりも早く手術が終了し想定よりも深い筋弛緩状態にあるケースや従命反応があり覚醒しているように見えても予想に反して筋弛緩状態から回復してないケースなど、筋弛緩モニターがなければ状態を把握できない症例が存在していると思います。筋弛緩モニターの使用は、ブリディオン®の添付文書に基づき、筋弛緩の深さと体重に応じた投与を行うために重要です。モニターは安全性を担保するための必要経費だと考えていますし、手術室の回転率を向上させる効率面にも寄与するのではないでしょうか。なお新しいモニターでは、術中のTOF推移を電子記録として残せるようになりました。何かトラブルが起こった際にも、データが残っていれば理論的に検証することができますし、訴訟から麻酔科医の身を守ることにもつながると考えています。

権田看護師 抜管後の回復は個々の患者さんで異なり、何となく呼吸が安定しない、何となく目覚めが悪いといった方もいらっしゃいます。このような「ちょっと変だな」は重要なサインであることが多いため、以前から必ず病棟への申し送り時に伝えるようにしていました。今の筋弛緩モニターは数値で結果が表示されるので、心電図モニターのように波形の意味を考えることもなく、一目で状態が分かります。そのため、抜管時に看護師もモニターを確認するなど、筋弛緩回復により一層の注意を払うようになったと感じています。

モニター装着がルーチンワークに 『すべては患者さんのために』」

中島先生 現在、筋弛緩モニターの装着は看護師主導で行っていますが、「看護師の仕事」と考えるのではなく、麻酔科医も積極的に装着するようにと伝えています。モニターを使用するのは麻酔科医であり、最終的な目的として「患者さんのためにつけている」のですから。加えて、看護師をはじめ看護助手や清掃担当者など、手術室に関わるすべてのスタッフがいるから麻酔科医はスムーズに仕事ができるということ、そして、スタッフ一人一人がプロ意識をもって従事している対等な仲間と意識することを心掛けてもらうようにしています。

権田看護師 当院では「手術の中心は患者さん」という考え方が浸透していますよね。また、中島先生は常々、「互いにリスペクトして仕事をするのがプロだよ」とおっしゃってくれているので、とても良好な関係性を築けていると思います。  看護師にとってモニター装着はルーチンワークの1つという認識にまだ留まっています。手術室看護師にとってリスク管理も大切な仕事であるため、患者のためにモニターが示す数値の意味なども教育していく必要があると考えています。当院では、術中に麻酔科医が掛け持ちなどで席を外すことは基本的にありませんが、例えば夜間や土日など人手が少ないときなどに、筋弛緩モニターの数値をチェックして麻酔科医に伝えるといったこともできたらよいと思っています。

中島先生 現状、一人の患者さんに対して一人の麻酔科医という対応ができていますが、手術室が増えることもあって、人員的な問題は起きてくるかもしれませんね。何より、気が付いた看護師が麻酔科医に気軽に伝えられる環境が大切で、それこそが「すべてが患者さんのため」のチーム医療だと思います。

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適切な筋弛緩管理における
私たちの取り組みポイント

浜松医科大学医学部附属病院

  • 看護師は心電図などのモニター装着を担っており、筋弛緩モニターも看護師の協力のお陰で、現在8~9割の症例で装着ができている。
  • 従命反応があっても十分に筋弛緩状態から回復してない場合があり、モニターなしでは状態を把握できない症例が存在する。
  • ブリディオン®の添付文書に基づき、筋弛緩の深さと体重に応じた投与を行うためには筋弛緩モニターが必要である。
  • 新しいモニターは電子記録のTOF推移から術後に筋弛緩状態を検証できるため、訴訟から麻酔科医の身を守ることにもつながる。
  • 手術室看護師はリスク管理も大切な仕事であり、筋弛緩モニターが示す数値の意味などを教育することも重要と考える。

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