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1分で読める睡眠豆知識 ~レム睡眠は何のためにあるのか~

逆説的な睡眠の謎

1953年、シカゴ大学の研究者が、新生児の睡眠の研究を通して、睡眠中に急速な眼球運動を伴う特殊な時期があることを発見しました1)。フランスの神経科学者Michel Jouvetは、眠っているのに目覚めたような、しかし刺激で目覚めないこの不思議な状態を「逆説睡眠(paradoxical sleep)」と命名しました。

レム睡眠の意義についてはこれまでに様々な研究が行われています。関連する遺伝子の同定も進んでおり、2018年には理化学研究所から、レム睡眠をほぼ行わないマウスの作製に成功したことが報告されました2)

レム睡眠と新生ニューロンの関係

レム睡眠のひとつの意義として、記憶の定着に重要であることがマウスを用いた研究で明らかになっています3)

一般的に脳神経細胞は一度失われたら再生しないと言われていますが、脳の海馬ではわずかに再生される神経細胞があることもわかっており、新生ニューロンと呼ばれています。本研究では、マウスをある箱に入れ、足下に軽い電気ショックを与える実験を行いました。マウスの脳ではこの箱と電気ショックの情報が結びつきますが、この過程を超小型の脳内視鏡で観察すると、電気ショック時に活動した新生ニューロンが、その後のレム睡眠の時に再活動していることがわかりました。さらに、新生ニューロンの活動を光刺激によりピンポイントで操作し、レム睡眠中の再活動を人工的に操作したところ、マウスに電気ショックの記憶は定着しませんでした。すなわち、レム睡眠時の新生ニューロンの再活動が記憶の定着に重要であるということが示唆されました。

もし新生ニューロンの操作技術が人間にも適応できるのであれば、記憶障害や認知症などの治療に活かせる日が来るかもしれないですね。

  1. E Aserinsky. et al, Science. 1953; 118(3062): 273.
  2. Y Niwa. et al, Cell Rep. 2018; 24(9): 2231-2247.e7.
  3. D Kumar. et al, Neuron. 2020; 107(3): 552-565.e10.