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1分で読める睡眠豆知識 ~睡眠と感染症~

感染症の治療には睡眠が必要?

「風邪をひくと眠りが深くなる」という経験をしたことはありませんか? 風邪に限らず、感染症と睡眠・覚醒調節機構の関連性については、様々な視点から研究が行われています。例えば動物実験では、インフルエンザウイルスやStaphylococcus aureus、Escherichia coliの感染により、徐波睡眠の持続時間の増加と睡眠時間の減少が観察されています1-3)。一般的に、こうした感染症による睡眠状態の変化は、「感染症に対する免疫系の働きを助けるための中枢神経系反応である」と解釈されることがあります4, 5)。すなわち、感染症においては白血球の活性を上昇させ、ウイルスの増殖が抑制される発熱状態にする必要があり、それに必要なエネルギーを保つために睡眠が必要、という考え方です。

睡眠の質を低下させる感染症もある

一方、感染症の中でもHIV陽性者では、逆に睡眠障害のリスクが健常者の2.66倍であることが示されています6)。この理由のひとつとして、IL-1、IL-6、ILR2およびTNF-αなどのサイトカインをコードする遺伝子の多型が、HIV関連の睡眠の質の低下と統計学的に関連していることが報告されており7)、サイトカインの作用を介する免役システムと睡眠・覚醒調節機構との関連性が示唆されています。実際、時計中枢である視交叉上核には、IL、TNF、IFNなどの多くの炎症性サイトカインとその受容体が発現しており、これらが体内時計と関連していると考えられています8)

このように、感染症の種類によって、ヒトの睡眠の傾向は様々に変化することがわかってきました。しかし、その機序についてはまだまだ不明点も多く、今後の研究の発展が期待されます。

  1. Toth LA. Pharmacol Biochem Behav. 1995; 51(4): 877-884.
  2. Toth LA, et al. Infect Immun. 1988; 56(7): 1785-1791.
  3. Toth LA, et al. Am J Physiol. 1992; 263(6 Pt 2): R1339-1346.
  4. Saper CB, et al. Nat Neurosci. 2012 Jul 26; 15(8): 1088-1095.
  5. Tesoriero C, et al. Brain Res Bull. 2019; 145: 59-74.
  6. Brice F, et al. AIDS Behav. 2018; 22(9): 2877-2887.
  7. Bayer JL, et al. Brain Behav Immun. 2015; 47: 58-65.
  8. Coogan AN, et al. Brain Res. 2008; 1232: 104-112.