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オレキシンの役割とは?

睡眠と覚醒のスイッチ

オレキシンは、睡眠と覚醒のスイッチング機能を担う脳内の神経伝達物質です1)。視床下部外側野にある神経細胞で産生されます。食欲や報酬系にも関与することから、ギリシャ語で「食欲」を意味するorexisから名付けられました2)。発見者は柳沢正史先生(現:筑波大学・国際統合睡眠医科学研究機構教授)の研究グループで、1996年当時、米・テキサス大学での研究中に偶然、見つけました。当初は食欲を促進する物質と考えられていましたが、オレキシンを産生する遺伝子を欠損させたマウスを観察したところ、食事量は減るものの、突然眠り込んでしまう「睡眠発作」を繰り返すことが明らかになりました。

オレキシンの働きに注目して睡眠薬が誕生

もう少し詳しいメカニズムを説明しましょう。オレキシンは覚醒時には覚醒のスイッチを押して覚醒系を活性化します。同時に睡眠中枢を抑制する作用を持っています。一方、睡眠時には睡眠中枢の産生神経が活性化し、オレキシンと覚醒中枢の働きは抑制します。この働きに注目して創られた睡眠薬がオレキシン受容体拮抗薬です。現在は過眠症の一種でオレキシンが欠乏するナルコレプシーの治療薬(オレキシン受容体作動薬)の開発も進められています。このように、睡眠の謎を解明する鍵を握るとされるオレキシンは今、うつ病や肥満、がんなどとの関連にも注目が集まっているのです。

イラスト

<参考文献>

  1. Sakurai T, et al. Cell 1998; 92: 573-585.
  2. Sakurai T. Nat rev Neurosci 2007; 8: 171-181.
  3. 内山真. 日本精神科病院協会雑誌 2012; 31: 1163-1169.