取り組み事例レポート:香川大学医学部附属病院編
取り組み事例レポート
香川大学医学部附属病院 腫瘍内科/がんセンター りつりん病院
治療効果を最大限に引き出すための有害事象マネジメント ~全員がオールラウンドに対応できる仕組みをつくる~
2019年2月 掲載 (2018年7月26日・27日 取材)

香川大学医学部附属病院 腫瘍内科/がんセンター
りつりん病院
- 有害事象マネジメントのキーポイント
- irAE早期発見のキーポイント
- irAE支持療法のキーポイント
- 問診・アセスメントのキーポイント
- ICI導入時とフォローのキーポイント
- ICIのirAEについての相談で「香川がん119番」を活用
※ 当該記事における肩書き・内容等の記載は、取材時点の情報です

有害事象のリスクを最小限にしながら、抗がん剤の
Dose intensityを維持
香川大学医学部附属病院(613床)では、各専門科による連携のもと組織横断的な集学的がん診療を行っている。同院では、分子標的治療薬の進化や免疫療法の登場、ゲノム解析による個別化医療などに対応すべく、従来の腫瘍センターを発展的に解消し、2018年1月に「がんセンター」を立ち上げた。現在、高度ながん診療に特化した診療体制を構築するため、病院の一部をがんセンター新病棟として改築中で、外来化学療法室などがん診療に関するすべての部門を集約した完全なセンター化を進めている。
腫瘍内科はほぼ全領域のがん薬物療法に対応するが、とくに胆嚢・膵臓などを含めた上下部消化管のがんに強く、また、耳鼻咽喉科との併診で頭頸部癌の化学療法なども手がけている。化学療法は地域医療機関との連携を保った形での治療継続を基本とし、一部の緊急例やレスパイト入院を除き、ほぼ全例外来導入・外来継続となっている。外来化学療法件数は2015年までの4年間では年間延べ4,000件前後で推移していたが、がんセンター化により患者数は増加傾向にあるという。
抗がん剤治療における有害事象マネジメントの基本的な考え方や目的について、辻晃仁医師(臨床腫瘍学 教授)は「リスクを最小限にしながら、dose intensityを維持して最大限の有効性を発揮させること」と話す。「初期の抗がん剤は毒ガスからつくられたもので、有害事象とは切っても切れない関係にあります。しかし、がんの治療においては使うべき理由があります。したがって、安易な減量・休薬で効果を減らして安全性を担保するのではなく、期待される効果が減弱しないよう支持療法などで、どう安全性を維持するかが重要です」。
たとえば、従来の抗がん剤(細胞障害性抗がん剤)でみられる代表的な有害事象に骨髄抑制がある。辻医師は、骨髄抑制を予測するために「血液検査値の推移を片対数表示化して確認する」という方法を重視する。白血球減少を例にとると、その推移を通常表示ではなく片対数グラフ(縦軸の白血球数を対数目盛にする)にすることで、化学療法施行によって白血球は必ずしも常に一定の割合で減少していくのではなく、週ごとに前値の1/2あるいは1/3ずつといった減少経過をたどる場合の多いことがわかる。そこで、最低値(nadir)から上昇傾向に転じる時点を推定することで、不必要な減量・休薬を避けることができる。「こうした理論を理解してこそ、プロトコルをつくることができます。この方法をすべての患者に適用する必要はありませんが、素養としてもっておくことで、患者を危険にさらさずに、期待する治療結果により近い、エビデンスが臨床試験と同様に構築されたクオリティが高いがん薬物療法を行うことが可能になります。そもそも、治療の根拠となるエビデンスは、投与基準や休薬・減量基準を遵守して行われた臨床試験の結果からつくられています。したがって、日常診療でも臨床試験並みのプロトコルを守って治療を行えば、有害事象は最小限に抑えることができるわけです。休薬・減量というのは有効性を担保しつつ安全に治療を行う手法です。すなわち、休薬とは有害事象が出現した際に安全にそのコースを終えるため、減量は前コースでの有害事象の程度、出現時期を考慮し次コースでの安全かつ有効な投与量を決定する目的があります。そうしたルールを知らずに、初回投与より理由なく減量したり、有害事象が出ているのにもかかわらず休薬が遅れたりすることは避けなければなりません。
有害事象対策は、腫瘍内科全員がオールラウンドに
もちろん、この考え方は免疫チェックポイント阻害剤(ICI:Immune Checkpoint Inhibitor)など新しい治療薬においても変わりはない。「ICIは従来の抗がん剤とは違う特有の有害事象を引き起こす可能性があります。しかし、こうした新しい薬剤は使うべき理由があって承認されたわけであり、ルールに則って使用すれば、過剰に心配する必要はありません。有害事象が不安だからなんとなく減量*・休薬するというのは治療効果を損ないますし、そこに治療の進歩はありません。では、進歩するためにはどうすればいいか。患者は限界まで頑張っています。あとはメディカルスタッフの頑張りで患者をサポートする万全の体制を整える必要があるのです」。
抗がん剤の有害事象対策はがん薬物療法毒性対策チームが中心となって行う。ただし、“チーム”が組織として存在するわけではなく、腫瘍内科スタッフと各診療科が協力して、有害事象マネジメントにかかわっている。ICIなど個々の薬剤に特化したチームはなく、ICIの免疫関連有害事象(irAE:immune-related Adverse Event)にも腫瘍内科の全員がオールラウンドに対応する。辻医師は、この点について次のように説明する。「特定の薬剤の有害事象についてチームをつくることになると、すべての抗がん剤にチームが必要になります。当院では、あえてチームをつくるのではなく、腫瘍内科のコアメンバーを中心として、あらかじめ33の診療科でサポートメンバーを決めておいて個別のケースに対応する仕組みを構築しています」。
*ICIでは減量基準は設定されておりません。
早期発見のポイントは、患者の訴えからirAEを「疑う」こと
同腫瘍内科において、実際にirAE対策はどのように行われているのだろうか?
「新たな有害事象が懸念される薬剤が使われるようになっても、その対策に個別の対応はあまり必要ないのではないかと考えています」と辻医師。ICIも慎重に使用経験を重ねていけば医師の側のラーニングカーブが上がっていくものと続ける。「ICIによるirAEは従来の抗がん剤とは違う特徴的な有害事象であるため戸惑うこともあるかもしれませんが、実はirAEの多くはわれわれ内科医が遭遇したことのある疾患です。もちろん症状の現れ方が異なっていたり、致命的な場合もありますが、irAEが認められた場合は速やかに各専門医に相談して適切な支持療法を行うことで万全の対策をとることができます。ただし、そのためには早期発見が何よりも重要になります」。
同腫瘍内科ではirAE発見のための投与前・投与中の検査項目を統一し、定期的にチェックを行っている(表1)。注意を必要とする重篤なirAEとして間質性肺疾患、劇症1型糖尿病などがあるが、辻医師が最初に経験した大きな合併症として印象に残っているのが、下垂体機能障害だという。疲れやすさやだるさを訴えてきた80代の患者がおり、内分泌検査で下垂体壊死による下垂体機能障害であることがわかり、副腎皮質ホルモン剤の投与等の支持療法で対処した。さらに最近、抗がん剤の治験で経験した患者で、治療中は元気だったが、血小板減少が起こったため休薬し、その間に「元気が出ない」と訴えて来院したために検査を行ったところ、副腎皮質ホルモンの不足による副腎機能低下が起こっていた。抗がん剤治療時は有害事象への支持療法で副腎皮質ホルモン剤を併用していたのでマスクされていたのだ。「こうした例を経験して痛感したのは、患者の訴えには必ず何らかの原因があるということです。有害事象は治療を中止した後でも起こります。患者の訴えに対しては必ず有害事象を疑って、原因を特定することが腫瘍内科医の重要な役割です。当院では患者からの問い合わせに対し、担当医が不在だからわからないということのないよう、腫瘍内科の医師全員が対応できる体制を整えています。ただ、医師の情報収集力には限界があるので、看護師や薬剤師による情報のフィードバックが不可欠です。」
表1 検査スケジュール 香川統一版
POINT irAE早期発見のための検査項目を統一して、わかりやすく共有している

検査にあたっては、保険適応を確認の上適切に実施ください。
提供:香川大学医学部附属病院腫瘍内科(2018年11月現在)
休薬の不安などに対して、否定的な言葉を使わないことが大切
抗がん剤や分子標的治療薬の投与においては、患者が安心して前向きな気持ちで治療に取り組むための支援も必要だ。そのための配慮として、患者への説明や声かけの仕方が挙げられる。辻医師は毒性から回復していない患者さんに単に「データが悪いから今日は治療できません」というのではなく「今日はまだ薬の効果も毒性も続いているから治療は次週で大丈夫ですよ」といったように、「~できない」「だめ」という否定形ではなく、「~できる」「まだまだ大丈夫」といった前向きな言葉を使うように心がけているという。「抗がん剤治療はつらいことが多く、医師側は治療の延期や休薬は患者にとってうれしいことだと考えがちです。しかし、実際には『病状が進行するのでは』という不安から、患者は治療の継続を希望するケースが圧倒的に多いのです。ですから、有害事象がみられた場合に、メディカルスタッフが『検査結果が悪いので治療はできません』と説明すると、患者は不安を抱いてしまう。『薬の作用がまだ続いているので、少しお休みしても大丈夫です』という肯定的な言い方をすべきです」。
同院では都道府県がん診療連携拠点病院としてICIのirAE対策の地域連携にも積極的に取り組む。表1の検査スケジュールは、香川統一版として地域にも広めていく予定。香川県全体のがん薬物療法において、同院のがんセンターと地域医療機関が患者を共同でサポートする体制づくりを目指している。
irAEマネジメント Tips&Traps
- 安全対策を万全にして、安易な休薬で期待される効果を減弱させない
- 医師、看護師、薬剤師などの協力体制で情報を集約する
- 肯定的な表現で患者の不安を和らげる

わかりにくい内分泌系のirAEを問診や検査で的確に検出
奥山浩之医師(腫瘍内科 学内講師)も腫瘍内科のコアメンバーの一人。専門は胆膵がん・神経内分泌腫瘍を中心とする消化器系だ。抗がん剤治療については主に有害事象マネジメントにかかわる。
患者が化学療法を受けるために来院した際には必ず事前に検査と診察を行い、患者自身が毎回記載するCTCAE v4.0準拠の問診票(図3参照)をチェックしながら、患者の様子を観察して詳細に話を聞く。
ICI治療中の患者で、奥山医師がとくに注意しているのは内分泌系のirAEだという。「たとえば、間質性肺炎であれば特徴的な症状があり、患者も気づきやすいのですが、内分泌系の有害事象はわかりにくいことが少なくありません。だるい、疲れやすいといった症状は、がんそのものでも起こりますし、有害事象とは関係がない場合もあり見逃しがちです。問診や検査によって見逃さないように注意する必要があります」。同腫瘍内科で統一している検査スケジュールのうち、内分泌関連ではTSHやFT3、FT4、ACTH、コルチゾールがルーティンの検査になっている(表1参照)。
irAE早期発見のポイントは、症状を「具体的に」尋ねること
irAEの早期発見のために奥山医師が気をつけていることは、「患者に症状をできるだけ具体的に聞く」ということだ。患者は休薬への不安から、つらい症状があっても黙っている場合がある。しかし、「たとえば『だるさはなかったですか?』『下痢はしませんでしたか?』『下痢は何回くらいしましたか?』と症状を具体的に絞って聞くと、最初は大丈夫と言っていても、徐々に細かい体調の変化についていろいろ話し出すことが少なくありません。入院が必要なほどの有害事象が現れて初めて気づくのではなく、わずかな変化の兆候がみられる段階から、まめに拾っていくことが大事だと思います」。
とくに注意が必要なのは、重症筋無力症などの深刻な事態となるirAE だ。「そういう有害事象があるということや発現時期などを医師が知識として頭の中に入れておかないと絶対に気づくことはできません」と奥山医師。さらに、「irAEは多岐にわたるので、医師のチェックから外れてしまうこともあります。ですから、看護師、薬剤師など複数の目が必要です」と強調する。
症状フローチャートや問診票など、有害事象早期発見のツールを有効活用
有害事象の早期発見のためには、メディカルスタッフだけでなく患者自身のセルフマネジメントも大切で、そのための患者教育も必要だ。同腫瘍内科では、がん化学療法を受ける患者には、「抗がん剤治療を受けられる方に」という小冊子を渡している。その中には主な有害事象の症状と対応についてのフローチャートが記載されている(図1)。さらに同院に相談・連絡する判断基準も具体的に書かれている。
有害事象の症状と対応をフローチャート式にすることで、患者自身が自宅で有害事象のチェックとマネジメントをある程度できるようになったという。抗がん剤やICIを使っている患者には、発熱や下痢などの際に使う頓服薬をあらかじめ処方しておき、チャートには服用の目安なども記載している。ただし、irAEである下痢の場合だけは対処が違う。止瀉薬を服用して安心しているとさらに悪化することもあるので、下痢をしたら病院に連絡するか来院するように伝えている。
さらに、irAEの早期発見のために、奥山医師は前述の問診票についてもさまざまな角度からチェックする。「われわれから見ると症状の程度は前回と同じでも、患者の記載するGradeの数値が変わっていることもある。そういう変化には注意するようにしています」。奥山医師は問診票の自由記述欄にも注目するという。面と向かっては言いにくい心配事や本音が、最後の自由記述欄に書かれていることも少なくないからだ。貴重な情報が思わぬところから見つかることもある。「以前、抗がん剤治療をしていて、有害事象の有無について尋ねると毎回『大丈夫です』と答える方がいました。ところが、あるとき造影CT検査を予約するのに同意書を書いてもらったところ、しびれがあって自分の名前が書けなかったのです。有害事象については十分にモニタリングしていたつもりだったので驚くとともに、有害事象発見の糸口はどこにあるかわからないと痛感させられました。ICI治療について正しい理解を促すことは大切。ただ、irAEについて細かく説明しすぎても患者は逆に対応に困ってしまいます。大事なのは、結果的には有害事象と違ってもいいので、体調の変化があったら早めに知らせてもらうことです」。
図1 有害事象の症状と対応についてのフローチャート
~抗がん剤治療を受けられる方に~
POINT 患者がすべき判断のポイントと対策がフローチャート式になっている

提供:香川大学医学部附属病院腫瘍内科(2018年11月現在)
irAEマネジメント Tips&Traps
- 患者の細かい体調変化を明らかにするために、症状は具体的に質問する
- 重篤な状態となるirAEについては、意識を高くしておく
- 有害事象発見の糸口は思わぬところにあるため、問診票の自由記載欄や患者の行動にも留意する

irAEの早期発見のための検査項目の絞り込みに着手
大北仁裕医師(腫瘍内科 病院助教)は、がん薬物療法全般にかかわるコアメンバー(実動部隊)の一人である。もともと消化器外科の出身で、現在は消化器癌はもちろん、頭頸部癌、肉腫などへの化学療法に幅広く対応している。
大北医師はirAEマネジメントにおいても大きな役割を果たしている。ICIの登場によって有害事象マネジメントのあり方に何か変化はあったのだろうか?
「全く違うと考えています。もちろん従来の抗がん剤も分子標的治療薬も、患者の訴えに耳を傾けて有害事象をいち早く見つけるという点ではマネジメントの基本は変わりません。しかし、ICIの場合、自己免疫疾患様の有害事象が全身に及ぶことから、そのマネジメントは難しいと感じています。投与に際する検査は全身にわたって必須ですが、そうでない検査もあり、現在、検査項目の絞り込みを行っています。今後のICI治療の流れとして、細胞障害性の抗がん剤や他の分子標的治療薬との併用も進んでいくでしょう。その場合、患者の症状から原因薬剤の特定が難しくなると予想されます」。
irAE早期発見のための患者向け症状チェックリストを作成
大北医師はirAEの早期発見を目指し、患者向け症状チェックリストを作成した(図2)。典型的な症状をわかりやすく表現したもので、とくに注意が必要な症状については赤色で強調されている。患者にはこれらの症状が出たら速やかに病院へ連絡するよう指導している。「ただ、irAEにはときに非典型的な症状が現れる場合や症状と実際に有害事象が現れる臓器がリンクしないこともあります。そうしたirAEを拾い上げるためには、『何かあったら電話してください』ではなく、ちょっとした体調の変化でも患者が遠慮せずに病院へ連絡できるよう、垣根をなくしておくことが大事だと思っています」。
大北医師はいま、考え得るICIのirAEと症状などをリストアップした個人的なマニュアルを少しずつ書きためているという。「非典型的な症状でも、しっかりと拾い上げられるようにしておく必要があると考えています。自分の診療科以外のirAEには診断に難渋する部分もあり、全領域に対応できるように備えておきたいのです」。ICI単剤によるirAEの場合、発現時期も参考にするという。「治療終了後1年以上経てからirAEが現れるとの報告もありますが、やはり12週や20週など発現時期の中央値はわかっているので、そこは重点的に見る必要があります」。
副腎皮質ホルモン剤の投与方法や免疫抑制剤に移行する基準を明確にすべき
支持療法のスタンダードは副腎皮質ホルモン剤、さらに免疫抑制剤の投与である。だが、そこで難しいのはまず副腎皮質ホルモン剤を使うべきかどうかの判断だという。「たとえば、患者に糖尿病の既往がある場合、副腎皮質ホルモン剤を投与すると糖尿病が悪化する危険もあります。副腎皮質ホルモン剤を使って大丈夫な症例なのかをしっかり見極める診断力がまず必要です」。
さらに、副腎皮質ホルモン剤を使う場合でも、投与方法や投与量、減量の方法などの判断は難しく、さじ加減は医師によってそれぞれ異なる。治験でICI治療を行っていた患者に肝機能障害が発現した。副腎皮質ホルモン剤を投与しても、なかなか症状が落ち着かず、「専門の診療科の医師に相談し、パルス療法を行うことになった。未だ確固たるエビデンスはありません。結局、その患者はパルス療法で回復せず、最終的には免疫抑制剤である程度症状が落ち着きました。副腎皮質ホルモン剤の使い方や免疫抑制剤に移行するタイミングなどの基準を明確にできればと思います」。
同腫瘍内科ではがん診療の地域連携の一つとして「香川がん119番」というホットラインを設けている(図6参照)。irAE対策に関する相談で当初から多かったのは、副腎皮質ホルモン剤の投与や減量の方法などについてだという。「普段、内科診療を行っていない医師が副腎皮質ホルモン剤を使い分けるのは難しく、中核施設がバックアップする体制は必要です。そうしたサポートを行いながら、地域の医療機関でもICIの使用に慣れてもらうことが重要だと考えています。『香川がん119番』は、医療過疎地域にいても大学病院レベルの有害事象マネジメントが受けられ、県内の患者に地域差のないがん医療を提供する取り組みです」。
図2 症状チェックリスト
~キイトルーダ®による治療を受けられる患者さんへ~
POINT とくに注意が必要な症状は赤色で強調され、ひとめでわかりやすい

提供:香川大学医学部附属病院腫瘍内科(2018年11月現在)
irAEマネジメント Tips&Traps
- わずかな体調変化でも患者が遠慮せずに病院へ連絡できるよう、垣根をなくしておく
- irAEは治療終了1年以上経過後でも発現する可能性はあるが、多くは治療初期に発現すると報告されていることから、その時期は重点的にモニタリングを行う
- 中核施設がサポートしつつ、地域の医療機関でも免疫チェックポイント阻害剤の使用に慣れてもらう

投与管理を安全確実に行うことが看護師の最も重要な役割
1日に20~40名の患者が治療を受ける外来化学療法室(16床)には、雑賀美和看護師(外来化学療法室 副看護師長)と青山真理子看護師(外来化学療法室 副看護師長)2名のがん化学療法看護認定看護師を含む4名の専任看護師が常駐し、投与管理や患者指導を行う。
投与管理は医師の指示に基づき、投与量や投与経路、患者プロファイルなどを確認するとともに、毎朝カンファレンスを行って問題点などを共有する。投与管理の注意点について青山看護師は次のように言う。「治療を安全確実に行うことがいちばんの目的です。抗体医薬品の有害事象であるinfusion reactionなど注入中に起こる反応を防ぐために、投与時間や投与経路の確認がとくに大切です。薬剤の確認は必ず看護師2名でダブルチェックを行います」。
さらに、雑賀看護師は患者の症状マネジメントについて次のように話す。「有害事象管理も含めて患者がセルフケアできるように指導するのも看護師の大切な役割です。患者が帰宅後日常生活でどのようなことに困っているのかをフォローしながら、どうすれば外来で治療を継続できるかをともに考えながら看護を進めています」。
図3 問診票~外来点滴治療を受けられる患者さんへ~
POINT CTCAE v4.0に準拠した問診票。患者自身が毎回記載する

提供:香川大学医学部附属病院腫瘍内科(2018年11月現在)
緊急連絡の基準を数値で示し、電話には必ず看護師が応対
患者指導に際しては、治療開始前にどのくらい患者の理解を得られるかが重要と青山看護師は語る。「診察室での初回導入の説明とインフォームド・コンセントから少し時間が経って精神的に落ち着いたところで、資材などを使って理解の足りないところを補完するようにしています」と話す。
とくにirAEについては、なぜ従来の細胞障害性抗がん剤とは違った有害事象が出るのかを理論立ててわかりやすく説明することで患者の納得が得られる。ただ、幅広いirAEの多くを説明しても患者は忘れてしまうこともあるので、最低限、間質性肺炎と大腸炎・下痢については確実に伝えるようにしている。
そして最も重要なのは、自宅で有害事象が疑われる症状が現れた際の連絡や対応についての指導である。「体調が変化したときに、ご自宅だと経過観察してよいものか受診する必要があるかの判断ができないので、困ったことがあれば電話相談でアドバイスをさせていただきます。一見些細なことでも患者にとっては深刻な問題だということを、看護師が理解して受け止めることが大切です」と雑賀看護師は言う。さらに青山看護師は「医師に対しては、こんなことで電話していいのかと躊躇される患者も少なくありません。そこで、『連絡いただければ必ず最初に看護師が出ますので気軽にお電話ください』とお伝えします」と続ける。
緊急連絡が必要な際の基準も患者へ明確に伝えておく。「熱が38度以上ある、下痢が6回以上続くなど、具体的な数値をお伝えするようにしています」と青山看護師。
外来化学療法室の看護師の目標は、有害事象をGrade 2以下に抑えること
有害事象のチェックについては問診票(CTCAE v4.0)(図3)を使用する。問診票を持参する看護師は問診票に記載されている有害事象の状況やGradeを評価し、とくにGradeの高い有害事象を中心に質問を重ねる。問診票は患者の来院時にその場で確認するので、朝のカンファレンスで確認した前回の情報とは状況が変化している場合もある。「その変化が問診票に凝縮されているので、問題点をどう掘り起こせるかが看護師の重要な役割」と青山看護師は考えている。
外来化学療法室の看護師の目標は、患者の有害事象をGrade 2以下に抑えることだという。これを共通認識として有害事象マネジメントにかかわる。青山看護師は「Gradeが2になってしまっていたら、1、0に近づけるよう支援します。3、4になってしまうと休薬や治療の中止、入院になってしまうので、その一歩手前でなんとか抑えたいと考えています」と話す。有害事象をGrade 2以下に抑えることで休薬せずにICI治療を継続させたい*。
問診票に記入された有害事象の情報はパソコンの有害事象テンプレート(図4)に毎回入力することで、Gradeの変化を把握している。これにより患者情報は継続して管理される。患者自身も「自分はこの症状が出やすい」「何日目にこの症状が出やすい」といった情報を共有できるメリットもある。ただ、場合によっては有害事象がすべて問診票に反映されるとは限らない。そこでものをいうのが“看護の目”だ。雑賀看護師はこんな経験を語る。「外来化学療法室で患者が食事をしているときにお箸を持ちにくそうにしていたり、ボタンをかけづらそうにしていた様子から末梢神経障害の有害事象が発見されたり、点滴ルート確保のために腕まくりした際に、皮膚障害が見つかったこともあります。問診票などによる本人の評価と客観的な評価は微妙にずれる場合があるので注意が必要です。とくに、irAEについては原疾患から起こる症状なのか、有害事象なのかの鑑別が難しい場合も少なくないので、より詳細な観察が必要ですし、患者のちょっとした訴えにも耳を傾けて症状に向き合っていくことが重要になると思います」。外来診察と違って、化学療法施行時にはメディカルスタッフが患者と共にいる時間は長い。その中での観察や気づき、傾聴など看護師の役割はきわめて大きい。有害事象の発現に気づかず投薬を続け、有害事象をより悪化させることは避けなければならない。看護師の観察はそのための最後のセーフティーネットにもなっている。
* 対処方法につきましては、最新の適正使用ガイドをご参照ください
図4 有害事象入力テンプレート画面
POINT 患者の情報を継続的に管理し、共有できる

提供:香川大学医学部附属病院腫瘍内科(2018年11月現在)
irAEマネジメント Tips&Traps
- 緊急連絡すべき症状の基準は、数値などでわかりやすく伝える
- 患者の小さな変化も見逃さないために、問診票の詳細なチェックが重要
- 個々の患者の有害事象を継続的に管理して、その発現傾向を患者やチームで共有する

ICI治療の初回導入時にインフォームド・コンセントをサポート
重田宏恵看護師(看護部緩和ケアセンター 副看護師長/がん看護専門看護師)は、がん看護外来で患者の意思決定支援を担当しており、抗がん剤治療初回導入の患者へのインフォームド・コンセントと緩和ケアの一環として治療中の苦痛への対処にもかかわっている。
抗がん剤やICI初回導入時の腫瘍内科外来でのインフォームド・コンセントには患者本人だけでなく家族にも同席してもらう。重田看護師はその場に立ち会い、医師の説明内容を確認し、その後別室で患者・家族と面談して理解度を確かめ、投与スケジュールや有害事象の説明を再度行う。「理解度を確認するために、『医師の説明をお聞きになってどのように理解されましたか?』と問いかけるようにしています。それで患者が話した内容を吟味して誤解している点があれば修正していきます。irAEについては、過去に化学療法を体験している方が多いので、従来の抗がん剤の有害事象とどう違うのかを重点的に説明します」。
問診票や苦痛のスクリーニングを活用し、つらさや症状の強い患者を継続的にフォロー
実際に治療が始まれば外来化学療法室へバトンタッチし、順調な患者の場合は経過を見守る。だが、何らかの問題のある患者には重田看護師も継続的にかかわることになる。外来化学療法を受ける日には毎回、患者は腫瘍内科外来を受診するが、前もって2枚の問診票に記入することになっている。1枚は前述のCTCAE v4.0の問診票、もう1枚は日本緩和医療学会の苦痛のスクリーニングシート(一部改変)(図5)だ。重田看護師は診察前に2枚の問診票を確認し、患者の問題点を把握する。「苦痛のスクリーニングでからだや気持ちのつらさの点数が高い方や、専門チームへの相談を必要とされている方には身体・心理的サポートを行っていきます。専門チームの支援を希望されない方でも、外来化学療法室の看護師とは週1回のカンファレンスで情報共有をしており、問題があれば外来診察に同席するなど継続的にかかわることになります」。
ICI治療はほぼ外来で行われるため、irAEは自宅で起こる可能性が高い。したがって、重田看護師は自宅での対処のサポートに力点を置く。重視するのは家族のサポートだ。「男性の高齢者などで症状を我慢してしまう方も少なくありません。本人にも家族にも『有害事象を我慢しても良いことは一切ない』と強調し、本人がつらそうにしていたら躊躇せずに病院へ連絡するようお伝えしています」。
図5 特定非営利活動法人 日本緩和医療学会の苦痛の
スクリーニングシート(一部改変)
POINT 患者の苦痛を探る質問票で、心理的なサポートを継続する

提供:香川大学医学部附属病院腫瘍内科(2018年11月現在)
irAEマネジメント Tips&Traps
- 患者の心理状態については、外来化学療法室の看護師と週1回のカンファレンスで情報共有する
- 心理状態に問題がある患者には、治療導入時に限らず継続的にかかわる
- 患者サポートは、家族との連携で細やかに行う

がん診療の地域連携の窓口として、開設された専門医ホットライン
香川大学医学部附属病院では、がん診療連携拠点病院の役割の一環として、医療関係者専用のがん専門医ホットラインを開設している。このホットラインを活用し、腫瘍内科が主導してスタートしたこの「香川がん119番」は、地域医療機関からの相談窓口として機能しており(図6)、がん診療の地域連携の有力なツールとなっている。ホットラインは14回線を用意しており、ほぼ全領域のがん専門医に直接アクセスできる。相談内容は、がん診療全般に及ぶが、最近はirAEに関する相談が増えているという。
香川県高松市の中心部にある独立行政法人地域医療機能推進機構「りつりん病院」は、199床の総合病院で、地域包括システムに適応した進化型二次救急病院である。香川大学医学部附属病院からは各科医師が常勤および非常勤として派遣されている。副院長の大橋洋三医師は専門が泌尿器科。膀胱癌や腎臓癌などの診断から手術、化学療法まで一連の治療として手がけている。大橋医師はこれまで尿路上皮癌数例に対してICIを投与したが、最初の症例でirAEを経験し、「香川がん119 番」を利用して対処法を相談した。
ICIのirAE発現を疑った時に、副腎皮質ホルモン剤の投与方法を相談
大橋医師が最初にICIを投与したのは尿路上皮癌で肝転移のある症例。GC(ゲムシタビン+シスプラチン)療法を行ったが十分な効果は得られず、最後の治療選択肢としてICI治療に切り換えた。投与当日から39.5度の発熱が続き、呼吸困難、SpO2に低下を認めた。ARDSと診断し、副腎皮質ホルモン剤などを投与したが、症状の改善がみられずに苦慮していた。
そこで、「香川がん119番」で腫瘍内科に連絡を入れ、副腎皮質ホルモン剤の投与量や投与日数、今後のフォローなどについて相談。アドバイスに従って対応したところ解熱し、救命することができた。
この経験から大橋医師は次のように話す。「基本的に患者は当院を信頼して診療を受けにきているため、抗がん剤の有害事象が出ても可能なかぎり自施設で対応したいと考えています。しかし限界もあります。とくに、これまでの抗がん剤とは有害事象のプロファイルの違うICIを使用する場合、まだ経験や情報が少ないこともあり、大学病院がirAEマネジメントの相談窓口になってもらえるのは非常に心強いと感じています」。
図6 香川大学医学部附属病院がん専門医ホットライン
~病院NEWS 第381号より~
POINT がん診療の地域連携の有力なツール「香川がん119番」開設のお知らせ

提供:香川大学医学部附属病院
