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Ⅳ期NSCLC治療選択のための病理検査(精度管理のポイント)

Ⅳ期NSCLC治療戦略のための病理検査

はじめに

監修:香川大学医学部附属病院 病理診断科・病理部 病院教授

羽場 礼次 先生

過去のⅣ期非小細胞肺癌の病理診断は、HE染色で癌細胞の有無と組織型を判定することでした。しかしながら、現在では複雑化しており、従来までの腺癌、扁平上皮癌の鑑別におけるTTF-1、p40や、神経内分泌腫瘍の鑑別におけるChromogranin A、synaptophysin、CD56に加えて、ALKやPD-L1などの免疫染色も必要となってきました。また、施設によってはRT-PCR、FISH、NGSなどでEGFR、ALK、ROS1、BRAFを検査するところもあると思います。

病理診断を確実なものにするためには、「精度管理」が重要であり、近年、精度管理に関するさまざまなプロジェクトが進行しています。

病理検査における精度管理は、Pre-analytical、Analytical、Post-analyticalの各段階にそれぞれポイントがあり、病理医はもちろんのこと内科医、外科医、検査技師のすべてがかかわります。

当コンテンツでは、肺癌検体作製時の精度管理から、各種検査の精度管理までのポイントを、香川大学病院での取り組みを交えて解説しております。2019年3月に日本病理学会より発行された「ゲノム研究用・診療用病理組織検体取扱い規程」とともに、先生方の日常診療の一助になりましたら幸いです。

Pre-analytical、Analytical、Post-analyticalの各段階

日本病理学会「ゲノム研究用・診療用病理組織検体取扱い規程」

EGFR遺伝子変異検査における精度管理のポイント

ALK融合遺伝子検査(IHC)における精度管理のポイント

ROS1融合遺伝子検査における精度管理のポイント

BRAF遺伝子変異検査における精度管理のポイント

PD-L1検査における精度管理のポイント

香川大学病院における精度管理および検体取扱い

肺癌診療ガイドライン2020年版における記載事項

FFPE検体を用いた分子診断のプレアナリシス段階における主な影響因子

●FFPE検体を用いた分子診断のプレアナリシス段階における主な影響因子●

FFPE(formalin-fixed paraffin-embedded):ホルマリン固定パラフィン包埋

ゲノム研究用・診療用病理組織検体取扱い規程、2019年、©一般社団法人日本病理学会、p126,127より抜粋

●固定前プロセス●

固定前プロセス

1 補
一般的な固定液であるホルマリンの浸透速度は1mm/時間程度であることを考慮し、特に手術検体では、切り出しまでに充分な固定が行える程度の厚みまで、固定前に適切に入割することが推奨される(C)。

凡 例
C:日常診療において推奨される事項 R:臨床研究等への利用を考慮する場合に推奨される事項 N:回避すべき事項

ゲノム研究用・診療用病理組織検体取扱い規程、2019年、©一般社団法人日本病理学会、p130より抜粋版), p11-16より抜粋

●固定プロセス●

固定プロセス

6, 7 補
現在実施されているIHC法を用いた複数のコンパニオン診断において、すでに10%中性緩衝ホルマリン溶液が推奨されている(下表)。IHC法によるタンパク質発現の検索は、ホルマリン固定液の組成と濃度に影響を受けることが示されている。またΔCt値やDIN値を指標としたDNA品質に関する検討においても10%中性緩衝ホルマリン溶液の使用を支持する結果が得られている。

国際共同企業治験等においてFFPE検体の提出が求められる際、10%中性緩衝ホルマリン溶液で固定されたFFPE検体との条件が必須となる場合もある。

凡 例
C:日常診療において推奨される事項 R:臨床研究等への利用を考慮する場合に推奨される事項 N:回避すべき事項

ゲノム研究用・診療用病理組織検体取扱い規程、2019年、©一般社団法人日本病理学会、p131,132

●各バイオマーカーにおいて推奨される固定プロセス●

各バイオマーカーにおいて推奨される固定プロセス
10% NBF:10%中性緩衝ホルマリン(neutral buffered formalin)、―:記載なし

ゲノム研究用・診療用病理組織検体取扱い規程、2019年、©一般社団法人日本病理学会、p131

【参考】日本病理学会 医療業務委員会 精度管理委員会編:体細胞遺伝子検査の検査精度に関する調査研究:
肺癌EGFR遺伝子変異検査研究報告書(平成28年4月30日報告)

参加医療機関および協力企業における精度調査の結果

変異の割合および内訳

※:IVD承認製品販売企業2社、登録衛生検査所3社、参加協力の申出のあった企業1社

目的 国内の医療機関における体細胞遺伝子検査の検査精度および質保証体制について把握する。また第三者機関(日本病理精度保証機構等)における今後の体細胞遺伝子検査の外部精度評価(EQA)実施にあたっての課題等を明らかにする。

対象 自施設にて、肺癌EGFR遺伝子変異検査を実施している医療機関および協力企業

方法 ①EGFR遺伝子変異検査を対象とした検査精度に関する検査サーベイを行う。
   ②本検査実施施設における質保証体制に関するアンケート調査を行う。

期間 平成27年12月~平成28年3月

日本病理学会 医療業務委員会 精度管理委員会編:体細胞遺伝子検査の検査精度に関する調査研究:肺癌EGFR遺伝子変異検査研究報告書
(平成28年4月30日報告)より改変

【参考】ALK-IHC精度管理プログラム:PhaseⅡ(地域がん診療連携拠点病院)報告書(2017年5月17日)
日本肺癌学会・日本病理学会合同ALK-IHC 精度管理ワーキンググループ編:
肺癌におけるALK免疫染色 プラクティカルガイド第1.4 版(2017年2月21日改訂), p9, 24
医薬品医療機器総合機構. 医薬品の適応判定を目的として承認された体外診断用医薬品又は医療機器の情報(令和3年5月27日版)

診断薬別にみたALK免疫染色

診断薬別にみたALK免疫染色

【参考】ALK-IHC精度管理プログラム:PhaseⅡ(地域がん診療連携拠点病院)報告書(2017年5月17日)
【提供】香川大学医学部附属病院 病理診断科・病理部 羽場 礼次 先生

診断薬別にみたALK免疫染色の異同

診断薬別にみたALK免疫染色の異同

【提供】香川大学医学部附属病院 病理診断科・病理部 羽場 礼次 先生

ROS1融合遺伝子の各種検出法の比較

ROS1融合遺伝子の各種検出法の比較

日本肺癌学会編:バイオマーカー委員会編:肺癌患者におけるROS1融合遺伝子検査の手引き 第1.0版, 表1 ROS1融合遺伝子の各種検出法の比較, p7

抗ROS1抗体D4D6を用いたIHCの染色条件および感度/特異度

抗ROS1抗体D4D6を用いたIHCの染色条件および感度/特異度

※:製品化前の抗体希釈濃度

1) Rimkunas VM et al. Clin Cancer Res 2012; 18: 4449-4457.
2) Sholl LM et al. Am J Surg Pathol 2013; 37: 1441-1449.
3) Mescam-Mancini L et al. Lung Cancer 2014; 83: 168-173.
4) Cha YJ et al. PLoS One 2014; 9: e103333.
5) Warth A et al. Histopathology 2014; 65: 187-194.
6) Yoshida A et al. Mod Pathol 2014; 27: 711-720.
7) Lee SE et al. Mod Pathol 2015; 28: 468-479.
8) Shan L et al. PLoS One 2015; 10: e0120422.
9) Rogers TM et al. J Thorac Oncol 2015; 10: 611-618.
10) Boyle TA et al. Clin Lung Cancer 2015; 16: 106-111.

IASLC ATLAS of ALK and ROS1 Testing in Lung Cancer. Second Edition ed. Aurora, CO, USA: International Association for the Study of Lung Cancer; 2016.より改変

【参考】日本肺癌学会編:バイオマーカー委員会編:肺癌患者におけるBRAF遺伝子変異検査の手引き(第1.0版 2018年4月5日), p13-14

進行非扁平上皮非小細胞肺癌における1次治療選択のアルゴリズム

進行・再発非扁平上皮非小細胞肺癌

*1 生検検体や細胞診検体などの微量な試料においては、非扁平上皮非小細胞肺癌以外の組織診断でも、BRAF遺伝子検査を行うことを考慮して良い。
*2 ニボルマブ+イピリムマブ併用投与の適応を判断するためのコンプリメンタリー診断薬である。
*3 アテゾリズマブ投与の適応を判断するためのコンプリメンタリー診断薬である。
※各コンパニオン診断薬の使用に際しては添付文書を参照ください。

日本肺癌学会, バイオマーカー委員会編: 肺癌患者におけるBRAF遺伝子変異検査の手引き(第1.0版2018年4月5日)、医薬品医療機器総合機構. 医薬品の適応判定を目的として承認された体外診断用医薬品又は医療機器の情報(令和3年5月27日版)、各種添付文書より作図

Pre-analytical

1 10%中性緩衝ホルマリンで6~48時間固定する

PD-L1免疫染色に適した検体処理の条件

PD-L1検査の検体の取扱い(固定・包埋・薄切)

これらは理想的な条件であり、それぞれの検査室で検証しうるものである。
FFPE(Formalin fixed paraffin embedded):ホルマリン固定パラフィン包埋

日本肺癌学会編:バイオマーカー委員会編:肺癌患者におけるPD-L1検査の手引き 第2.0版, p7り作成

Analytical

2 陰性コントロール、陽性コントロールを置く

PD-L1検査の標本判定を行う前に(気管支生検)

PD-L1検査の標本判定を行う前に(気管支生検)

【提供】香川大学医学部附属病院 病理診断科・病理部 羽場 礼次 先生

陽性コントロール(扁󠄀桃組織)

陽性コントロール(扁󠄀桃組織)

【提供】香川大学医学部附属病院 病理診断科・病理部 羽場 礼次 先生

Post-analytical

3 PD-L1陽性の腫瘍細胞を見極める

22C3抗体を用いたPD-L1免疫染色の判定

22C3抗体を用いたPD-L1免疫染色の判定

【提供】香川大学医学部附属病院 病理診断科・病理部 羽場 礼次 先生

4 自施設のTPS分布を一度確認する

PD-L1検査のTPS別の分布

PD-L1検査のTPS別の分布

1) Garon EB et al. N Engl J Med 2015; 372: 2018-2028
2) 承認時評価資料:海外第Ⅰ相試験パートC, F(KEYNOTE-001試験)
3) Herbst R et al. Lancet 2016; 387: 1540-1550
4) 承認時評価資料:国際共同第Ⅱ/Ⅲ相試験(KEYNOTE-010試験)
5) Reck M et al. N Engl J Med 2016; 375: 1823-1833
6) 承認時評価資料:国際共同第Ⅲ相試験(KEYNOTE-024試験)
7) Gandhi L et al. N Engl J Med 2018;378:2078-2092
8) 承認時評価資料:国際共同第Ⅲ相試験(KEYNOTE-189試験)
9) Paz-Ares L et al. N Engl J Med 2018; 379: 2040-2051
10) 承認時評価資料:国際共同第Ⅲ相試験(KEYNOTE-407試験)
11)Mok TSK et al. Lancet 2019; 393: 1819-1830
12) 承認時評価資料:国際共同第Ⅲ相試験(KEYNOTE-042試験)

Pre-analytical

1 検体組織は1mmあれば、理論上、評価可能である

検体組織の最大必要量

検体組織の最大必要量

【提供】香川大学医学部附属病院 病理診断科・病理部 羽場 礼次 先生

2 気管支内視鏡on-site cytologyを実施する

【参考】Bando K et al. Lung Cancer 2011; 72: 172-176. Kanaji N et al. Lung Cancer 2012; 77: 293-298. 羽場 礼次. 病理と臨床 2013; 31: 206-207.

気管支内視鏡on-site cytologyの目的と流れ

3 1検体1ブロックで標本を作製する

病理部門での工夫

病理部門での工夫

【提供】香川大学医学部附属病院 病理診断科・病理部 羽場 礼次 先生

香川大学病院

香川大学病院における肺癌生検の病理診断の流れ

【提供】香川大学医学部附属病院 病理診断科・病理部 羽場 礼次 先生

矢印アイコン「検査項目に優先順位をつけず、同時に行うよう提案する。」ことがCQ24に記載されています。

>>>>> 肺癌の診断 ― 分子診断― <<<<<

CQ23. 治療方針を決めるための、分子診断の項目は何か?

治療方針を決めるための、分子診断の項目は何か?

CQ24. 非小細胞肺癌の治療方針決定のために行う分子診断は、検査項目に優先順位をつけるか?

非小細胞肺癌の治療方針決定のために行う分子診断は、検査項目に優先順位をつけるか?

日本肺癌学会:肺癌診療ガイドライン2020年版.Ⅰ.肺癌の診断 6.分子診断
(https://www.haigan.gr.jp/guideline/2020/1/1/200101060100.html)

>>>>> 非小細胞肺癌:Ⅳ期(サブグループの同定) <<<<<

非小細胞肺癌:Ⅳ期(サブグループの同定)

「転移など各病態に対する治療」も参照
EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子の検索は必須ではないが、診断が生検や細胞診などの微量の検体の場合においては、腺癌が含まれない組織でも、EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子などの検索を考慮する。

日本肺癌学会:肺癌診療ガイドライン2020年版.Ⅱ.非小細胞肺癌(NSCLC) 非小細胞肺癌の樹形図
(https://www.haigan.gr.jp/guideline/2020/1/2/200102000000.html)

>>>>> Ⅳ期非小細胞肺癌:サブグループ別の治療方針 <<<<<

Ⅳ期非小細胞肺癌:サブグループ別の治療方針

日本肺癌学会:肺癌診療ガイドライン2020年版.Ⅱ.非小細胞肺癌(NSCLC) 7.Ⅳ期非小細胞肺癌
(https://www.haigan.gr.jp/guideline/2020/1/2/200102070100.html)

日本肺癌学会:肺癌診療ガイドライン2020年版. 図1. GRADEに基づいた推奨度
(https://www.haigan.gr.jp/guideline/2020/jo/20002020ho00.html)

①本著作物は日本肺癌学会が作成及び発行したものであり、本著作物の内容に関する質問、問い合わせ等は日本肺癌学会にご連絡ください。
②MSD株式会社は日本肺癌学会から許諾を得て、本著作物を内容の改変を行うことなく複製し配布しています。

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