HPVワクチンのキャッチアップ接種について
HPVワクチンの積極的接種勧奨の差し控えにより、
接種機会を逃した方へのキャッチアップ接種についてご紹介いたします。
- HPVワクチンのキャッチアップ接種について
- HPVワクチンのこれまでの接種状況について
- HPVワクチン接種後の診療および相談体制について
- 16~26歳の女性におけるガーダシル®の臨床試験成績
- HPVワクチンのキャッチアップ接種に関するQ&A
●HPVワクチンのキャッチアップ接種※について
HPVワクチンの積極的勧奨の差し控えにより接種機会を逃した方を対象に、HPVワクチンの「キャッチアップ接種」が令和4年4月1日から令和7年3月31日までの3年間に実施されます。
キャッチアップ接種の対象者は、積極的な勧奨を差し控えている間に定期接種の対象であった平成9年度生まれから平成17年度生まれまでの女子です。また、HPVワクチンの接種機会の確保の観点から、キャッチアップ接種の期間中に定期接種の対象から新たに外れる世代(平成18年度、19年度生まれ)についても、順次キャッチアップ接種の対象となります。
図1:HPVワクチンのキャッチアップ接種の概要
厚生労働省 HPVワクチンに係る自治体向け説明会 資料 令和4年4月からのHPVワクチンの接種について
https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000911549.pdf (Accessed Oct. 24, 2022)
※:【キャッチアップ接種】HPVワクチンの積極的勧奨の差し控えにより接種機会を逃した方が存在する。こうした方に対して公平な接種機会を確保する観点から、時限的に、従来の定期接種の対象年齢を超えて接種を行うこと。
●HPVワクチンのこれまでの接種状況について
ワクチン接種緊急促進事業(平成22年11月26日~平成25年3月31日)の対象であった平成11年度以前の生まれの世代では、HPVワクチンの接種率が7割程度である一方、定期接種の積極的な勧奨が差し控えられた平成25年度以降に標準的な接種期間(13歳の学年)であった平成12年度生まれ以降の世代では接種率が低くなっています。
図2:1回目のHPVワクチン接種済みの割合(2017年度接種分までの推計データ)
厚生労働省 2021年11月15日 第26回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 資料5-1 より改変
https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000854570.pdf (Accessed Oct. 24, 2022)
●HPVワクチン接種後の診療および相談体制について
HPVワクチンの定期接種を進めるに当たっては、接種後の症状に対する相談支援体制・医療体制等の維持、確保が重要であることから、厚生労働省は「HPVワクチンの定期接種に関する相談支援体制・医療体制等について」において、各地方自治体、協力医療機関および地域の医療機関に求められる役割を示しました。
接種医の役割については、「接種までの対応」と「接種後の対応」として、以下のとおり示しています(図3) 。
図3:接種医の役割について
厚生労働省 健健発1228第1号 2021年12月28日 ヒトパピローマウイルス感染症に係る
定期接種を進めるに当たっての相談支援体制・医療体制等の維持、確保について(健康課長通知)
https://www.mhlw.go.jp/content/000875154.pdf (Accessed Oct. 24, 2022)
●16~26歳の女性におけるガーダシル®の臨床試験成績
キャッチアップ接種の対象に近い16~26歳の女性におけるガーダシル®の国内外の臨床成績をご紹介します。
●海外第Ⅲ相無作為化プラセボ対照二重盲検試験の概要(海外データ/検証的)
【目 的】 | ガーダシル®群の有効性および安全性をプラセボ群と比較して検討する。 |
【対 象】 | 16〜26歳の女性12,157例(1回以上接種人数):PPE(Per-Protocol Efficacy)解析対象集団※ |
【試験デザイン】 | 無作為化、二重盲検、プラセボ対照、多施設共同、国際共同、有効性試験 |
【方 法】 | ガーダシル®またはプラセボを0、2、6ヵ月で3回筋肉内接種し、48ヵ月まで追跡し、有効性および安全性について検討した。 |
【主要評価項目】 | HPV16、18型に関連したCIN2/3、AISまたは子宮頸がんの発生率(検証項目)および安全性 |
【解 析 計 画】 | 有効性および安全性は、PPE(Per-Protocol Efficacy)解析対象集団で検討した。 予防効果(%)は、{1-(ガーダシル®群のイベント発生数/ガーダシル®群の追跡期間)/(プラセボ群のイベント発生数/プラセボ群の追跡期間)}×100によって算出した。 また、ガーダシル®の予防効果の点推定値と多重性を調整した信頼区間を算出した。 |
※:PPE(Per-Protocol Efficacy)解析対象集団:組み入れ1年以内にガーダシル®︎の3回接種をすべて受け、プロトコールから大きな逸脱がなく、評価項目に関連するHPVの型に対して初回接種前から3回接種の1ヵ月後(7ヵ月時)まで未感染であり、かつ初回接種前に血清抗体反応陰性であった被験者集団。
●海外第Ⅲ相無作為化プラセボ対照二重盲検試験におけるHPV16、18型に関連したCIN2/3、AISまたは子宮頸がんの予防効果(主要評価項目)
表1:HPV16、18型に関連したCIN2/3、AISまたは子宮頸がんの予防効果(検証項目)
●海外第Ⅲ相無作為化プラセボ対照二重盲検試験における安全性(主要評価項目)
副反応は、ガーダシル®群で6,075例中603例(10.0%)、プラセボ群で6,076例中536例(8.9%)に認められました。注射部位の副反応は、ガーダシル®群で531例(8.8%)、プラセボ群で457例(7.6%)、注射部位以外の副反応は、ガーダシル®群で233例(3.9%)、プラセボ群で221例(3.7%)に認められました。
重篤な有害事象はガーダシル®群で3例に認められ、胃腸炎1例、頭痛および高血圧1例、注射部位疼痛および注射部位関節障害1例でした。試験中止に至った有害事象は、ガーダシル®群で5例に認められ、蕁麻疹1例、注射部位腫脹、浮動性めまいおよび注射部位紅斑1例、気管支刺激1例、手根管症候群1例、発疹1例でした。
死亡例はガーダシル®群で7例に認められましたが、いずれも治験担当医師により治験薬との因果関係が否定されました。
承認時評価資料 海外第Ⅲ相臨床試験(015試験/FUTURE*Ⅱ) (社内資料)
(*:Females United To Unilaterally Reduce Endo/Ectocervical Disease)
●国内第Ⅳ相非盲検単群試験の概要
【目 的】 | 日本人女性におけるガーダシル®の有効性および安全性を検討する。 |
【対 象】 | 16〜26歳の女性1,030例(平均年齢:22.9歳、初回接種時の性交渉経験率:85.3%、平均性交渉人数:2.5人)※ |
【試験デザイン】 | 非盲検単群試験 |
【方 法】 | 2011年11月25日〜2016年12月14日まで、ガーダシル®を0、2、6ヵ月で3回筋肉内接種した被接種者1,030例を48ヵ月まで追跡し、有効性および安全性について検討した。 |
【評 価 項 目】 | 【主要評価項目】HPV6型、11型、16型および18型に関連したCIN2/3、AISまたは子宮頸がんの発生率および安全性 【探索的評価項目】HPV6型、11型、16型および18型に関連したEGLの発生率 等 |
【解 析 計 画】 | 有効性は、PPE(Per-Protocol Efficacy)解析対象集団で検討した。 安全性は、少なくとも1回のワクチン接種を受け、利用可能な安全性データを持つすべての被験者集団で検討した。 ガーダシル®の予防効果の点推定値と95%信頼区間をポアソン分布により算出した。 |
●ベースラインの患者背景
表2:ベースラインの患者背景
●国内第Ⅳ相非盲検単群試験におけるHPV6型、11型、16型および18型に関連したCIN2/3、AISまたは子宮頸がんの発生率(主要評価項目)
表3:HPV6型、11型、16型および18型に関連したCIN2/3、AISまたは子宮頸がんの発生率【主要評価項目】
●国内第Ⅳ相非盲検単群試験におけるHPV6型、11型、16型および18型に関連したEGLの発生率
表4:HPV6型、11型、16型および18型に関連したEGLの発生率【探索的評価項目】
●国内第Ⅳ相非盲検単群試験における安全性(主要評価項目)
1つ以上の有害事象は1,029例中344例(33.4%)に認められました。
主な副反応は頭痛24例(2.3%)、倦怠感18例(1.7%)、発熱13例(1.3%)でした。
重篤な有害事象は8例(人工妊娠中絶4例、自然流産1例、扁桃周囲炎1例、くも膜下出血1例、胎位異常1例)に認められました。
死亡はくも膜下出血1例でした。
ワクチン関連の有害事象による中止例は蕁麻疹1例に認められました。
Sakamoto M et al. J Infect Chemother. 2019; 25: 520-525.
【利益相反】 著者にMSD社より研究助成費、科研費、講師謝礼を受領している者が含まれる。
著者にMSD社の社員が含まれる。
※:社内資料
●HPVワクチンのキャッチアップ接種に関するQ&A
- Q 性交渉の経験がある人に接種は可能か?
- Q 年齢により効果に差はあるのか?
- Q 過去に接種したかどうか不明な場合にはどうすべきか?
- Q 過去に接種を中断してしまった人は、これから3回接種しないと効果は期待できないか?
- Q 過去に定期接種で1~2回接種した人は、残りの接種回数をキャッチアップで接種可能か? またその場合、過去に接種したHPVワクチンが不明な人にガーダシル®の接種が可能か?
- Q 妊娠している可能性がある場合、接種しても問題ないか?また、3回目の接種が終わらない間に妊娠が判った場合、その後の接種は?
- Q HPVワクチンを接種すれば子宮頸がん検診は必要ないのか?
- Q 定期接種やキャッチアップ接種の対象となるHPVワクチンは?
Q 性交渉の経験がある人に接種は可能か?
初めての性交渉より前にHPVワクチン接種をすることが最も効果的ですが、性交渉の経験があっても、HPVワクチンに含まれるHPV型に未感染であれば、その未感染HPV型の将来の感染予防が期待できるため、接種は可能です。
既に感染しているHPV型に対する治療的効果はないため、既感染者を含む集団ではHPV16/18型に関連した前がん病変の発生予防効果は約30~60%とされています。
日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会 編集・監修. 産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編. 2020: 47-51.
図4:15~26歳女性17,622例のHPV感染状態(海外データ)
FUTUREⅡ Study Group. J Infect Dis. 2007; 196: 1438-1446.
【利益相反】 著者にMSD社よりコンサルタント謝礼、病理パネルの謝礼、
試験実施の謝礼、講師謝礼を受領する者が含まれる。
図5:出生動向基本調査(2010年)から推定した18~39歳の全日本人における異性間性交渉経験
Ghaznavi C et al. BMC Public Health. 2019; 19: 355. より作成
Q 年齢により効果に差はあるのか?
HPVワクチンに対する免疫応答は年齢とともに減少しますが、HPVワクチンに含まれるHPV型に未感染の場合、そのHPV型による疾患に対し45歳までの有効性が認められています。
- 9~45歳の女性23,951例を対象に免疫原性を評価した海外第Ⅲ相臨床試験において、3回目接種の1ヵ月後の抗体陽転率は96.4~99.9%でした。なお、HPV抗体価の幾何平均(GMT)は接種年齢とともに漸減し、免疫反応の持続性(抗体陽性率)について、48ヵ月時点では9~15歳で最も高く、35~45歳で最も低いことが認められていますが、予防効果は維持していました1)。
- 一方で、既に感染しているHPV型に対する治療的効果はないため、初めての性交渉より前(初交前)にワクチン接種をすることが最も効果的です。
- 産婦人科診療ガイドラインでは、HPVワクチン接種の対象とその解説に、以下の点が触れられています2)。
図6:HPVワクチン接種の対象(産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編)
1) ガーダシル® 電子添文
2) 日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会 編集・監修. 産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編. 2020: 47.
Q 過去に接種したかどうか不明な場合にはどうすべきか?
現時点(2022年10月現在)で、国内における指針やガイドラインはありません。
母子健康手帳などで可能な限り接種記録をご確認ください。
- 米国予防接種諮問委員会(Advisory Committee on Immunization Practices:ACIP)のガイドラインでは、ワクチン接種記録は極力確認すべきだが、もし見つからない場合にスケジュールを延期すべきではなく、該当する年齢に応じた接種スケジュールで接種を再開すべきとされています。
Kroger AT et al. MMWR Recomm Rep. 2011; 60(RR-02): 1-60.
Q 過去に接種を中断してしまった人は、これから3回接種しないと効果は期待できないか?
接種スケジュールが長期中断された場合でも、最初の接種からやり直すのではなく、残りの接種を追加してください1)。
図7:中断後の対応について
1) 日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会 編集・監修. 産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編. 2020: 52-53.
2) ガーダシル®︎ 電子添文
3) Zimmerman RK et al. J Womens Health. 2010; 19: 1441-1447.
【利益相反】 著者にMSD社より講演料を受領している者が含まれる。
4) Lamontagne DS et al. J Infect Dis. 2013; 208: 1325-1334.
【利益相反】 MSD社は無償で免疫原性試験のデータ提供を行った。
5) Russell K et al. Vaccine. 2015; 33: 1953-1958.
【利益相反】 著者にMSD社より講演料、コンサルタント料等を受領している者が含まれる。
Q 過去に定期接種で1~2回接種した人は、残りの接種回数をキャッチアップで接種可能か? またその場合、過去に接種したHPVワクチンが不明な人にガーダシル®️の接種が可能か?
2022年3月18日に発出された厚生労働省健康局健康課長通知において、以下のように通知されました。
図8:過去の接種が未完了またはワクチンの種類が不明な場合の対応について
厚生労働省 健健発0318第3号 2022年3月18日 HPVワクチンのキャッチアップ接種の
実施等について(健康課長通知) より作成
https://www.mhlw.go.jp/content/000915791.pdf (Accessed Oct. 24, 2022)
Q 妊娠している可能性がある場合、接種しても問題ないか?また、3回目の接種が終わらない間に妊娠が判った場合、その後の接種は?
妊婦または妊娠している可能性のある女性に対する安全性は確立していないため、原則として接種しないでください。ただし、予防接種上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ接種をご検討ください。3回目の接種が終わらない間に妊娠が判明した場合、残りの接種を妊娠終了まで延期してください。なお、初回からやり直す必要はありません。
Q HPVワクチンを接種すれば子宮頸がん検診は必要ないのか?
HPVワクチンではすべての発がん性HPV型の感染を予防できないため、ワクチン接種後も子宮頸がん検診は必要です。
20歳を過ぎたら定期的に検診を受診してください。
- HPVワクチンには、既に感染しているHPVの排除や、子宮頸部病変の治療的効果はありません。
- HPVワクチン接種後も定期的に子宮頸がん検診を受け、早期発見に努めることが重要です。
日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会 編集・監修. 産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編. 2020: 49-51.
図9 子宮頸がん予防について
厚生労働省 小学校6年〜高校1年相当の女の子と保護者の方へ大切なお知らせ(詳細版)
Q 定期接種やキャッチアップ接種の対象となるHPVワクチンは?
2価HPVワクチン、4価HPVワクチンが対象です。
4価HPVワクチンの男性への接種および9価HPVワクチンは任意接種となります(2022年10月現在)。
図10 HPVワクチンの種類
各製品電子添文より