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筋弛緩モニタリングの重要性

TOFウォッチ®マスターマニュアル

監修:日本大学医学部麻酔科学系麻酔科学分野 主任教授 鈴木 孝浩 先生

筋弛緩モニタリングの重要性

筋弛緩の程度は、実地臨床において患者の臨床所見(頭部や下肢の挙上が可能かなど)の評価により判断されることが多い。また、これに末梢神経刺激装置により誘発された筋収縮を触知あるいは視覚的に評価する主観的モニタリングを加えたとしても、抜管に必要な筋弛緩状態からの回復の判断が難しいことが明らかになっている。
筋弛緩状態からの至適回復は、1970年代にAliらが提唱したTOF比>0.71)が長く基準とされてきたが、その後の検討でTOF比0.7では誤嚥防止を担う咽頭上部食道括約筋機能2)や、深呼吸時の上気道径3)が十分に回復しておらず、呼吸器合併症の発症リスクが高いことが示唆された。そのため、現在ではTOF比0.9以上が筋弛緩からの至適回復とされているが、このTOF比0.9以上を臨床所見で確認することは難しい。Kopmanらの検討では、5秒間の頭部または下肢の挙上が可能でも、TOF比を計測すると約0.6で、信頼性が高いとされている舌圧子の保持でもTOF比は0.8程度であったことが示されている4)
以上のことから、筋弛緩からの至適回復の評価に筋弛緩モニターを用いた客観的なモニタリングが必要であると考えられる。また、筋弛緩モニターによる定量的な計測を行うことで、適切な気管挿管のタイミングの把握、術中の適正な筋弛緩状態の管理、更には手術終了時の筋弛緩回復薬の投与量や抜管するタイミングを正確に判断することができるようになる。
*:2004年以降、AMG(TOFウォッチ®など)ではTOF比≧1.0が推奨されています。

TOF比と残存筋弛緩、臨床所見・検査値との関係

TOF比と残存筋弛緩、臨床所見・検査値との関係

参考資料)
1) Ali HH, et al. Br J Anaesth 1975; 47(5): 570-574.
2) Eriksson LI, et al. Anesthesiology 1997; 87(5): 1035-1043.
3) Eikermann M, et al. Am J Respir Crit Care Med 2007; 175(1): 9-15.
4) Kopman AF, et al. Anesthesiology 1997; 86(4): 765-771.
5) Plaud B, et al. Anesthesiology 2010; 112(4): 1013-1022.