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テスト


COVID-19の影響

2000年以前は誤嚥性肺炎を防ぐために胃瘻の設置が盛んにおこなわれていたが、その後、胃瘻は誤嚥性肺炎の発生率を軽減しないことが示され1-3、日本老年医学会からも胃瘻造設は慎重に検討するべきであるとの声明が出された4。このように、技術的な方法で肺炎を減らすのは非常に困難である。2020年4月〜10月に全国38病院に入院した患者数を調査したところ、COVID-19流行初期は全体的に⼊院患者数が減少していた。がん患者や心疾患患者では一時的に入院患者数の減少が認められたものの、しばらく後には再び増加し、最終的には元に戻った。一方、肺炎患者は⼊院患者が減少したまま元に戻らず、約50%程度まで減少した5。手洗い、マスクなどのCOVID-19対策が功を奏し、インフルエンザや肺炎が減少したと考えられる。

COVID-19は肺炎球菌ワクチンの出荷本数にも影響を及ぼしている。2019年に出荷された肺炎球菌ワクチン(PPSV23)の本数は4〜6月に352000本、7〜9月に271000本と、COVID-19流行初期は受診控えによって出荷本数が減少した。しかし、肺炎に対する危機感が⾼まったためか、10〜12月は473000本、2020年1〜3月は497000本、4〜6月は475000本、6〜9月は594000本と出荷本数が増加していた6

肺炎球菌ワクチンの接種率

日本における肺炎球菌ワクチンの接種率を調査したデータは少ない。2013年に自治体の65歳以上の人口とワクチン(23価肺炎球菌莢膜多糖体型ワクチン:PPSV23)の出荷数から接種率を推定した検討7では、東日本大震災時に無償接種が実施された岩手県(51.3%)、宮城県(56.3%)、福島県(68.7%)で全国平均(25.4%)よりも接種率が高かった。このため、公費助成とワクチン接種率には密接な関連があると考えられる。

諸外国の65歳以上における肺炎球菌ワクチンの接種率は、英国で70.6%(2020年4月〜2021年3月)8、米国で63.6%(2015年)9と日本に比べて高く、日本はワクチン後進国と言われており、その背景には日本人のワクチンの安全性に対する不信感があると考えられる。日本では2014年10月から肺炎球菌ワクチンの定期接種が開始されたことで、徐々に接種率が上がってきている10

日本呼吸器学会の成人市中肺炎診療ガイドライン(2007年版)11では、①65歳以上の高齢者、②2〜64歳で慢性心不全(うっ血性心不全)、慢性呼吸器疾患(COPDなど)、糖尿病、アルコール中毒、慢性肝疾患(肝硬変)、髄液漏の患者、③脾摘後、脾機能不全、④老人施設や長期療養施設などの入居者、⑤易感染性患者を肺炎球菌ワクチン接種の適応としている。様々な理由で来院する患者で上記の条件に当てはまる方は非常に多いと考えられるが、実際にワクチンを接種している医師は少なく、積極的にワクチン接種を勧める必要がある。

肺炎球菌ワクチン普及のための取り組み(図1)

順天堂大学では肺炎球菌ワクチン接種率を向上するため、全ての患者の電子カルテに肺炎球菌ワクチンの接種状況をチェックする欄を設けている。これによって医師が患者に接種歴を確認し、未接種の患者に接種を促し、ワクチンのことを知らなかった患者に説明をする機会が得られるようにしている。また、個人的な取り組みとして、各医局員が何人の患者にワクチンを接種したか毎月データを集計し、評価している。外科やICUと異なり、プライマリ・ケアや総合診療は医者の実績を評価するのが難しいが、外来で肺炎球菌ワクチンの接種が可能な患者に対して、何人接種できたのかというのは、どれくらい接種率向上に取り組んでいるかの、ひとつの医療の質の指標になると考えられる。

当院で全入院患者を対象に、肺炎球菌ワクチン(PPSV23)接種の有無と予後の関連を検討した結果、肺炎球菌ワクチン(PPSV23)接種有りの群において、入院中の全死亡率、入院日数、医療費が有意に減少していた(それぞれp=0.008、p<0.001、p<0.001、Fisherの正確確率検定またはMann-Whitney U検定)12。また、わが国の介護施設入居者を対象とした研究から、30〜40人に肺炎球菌ワクチン(PPSV23)を接種すると1人の肺炎球菌性肺炎死亡を防げることが示されている13。このような結果から、基礎疾患や既往歴に関係なく、幅広い人々へ肺炎球菌ワクチンを普及させることが大切であり、接種を受ける患者側、実施する医師側の両方からのアプローチが必要と考えられる。その対策として、順天堂大学を中心に患者向けのセルフチェックアプリや医師・医学生向けの感染症教育アプリを開発し、提供している。今後、医師・研修医・医学生に対するワクチン接種の意義を教育、徹底すること、看護師や薬剤師などのワクチン普及への参画が重要だと考えられる。

図1 順天堂大学における接種率向上のための取り組み

接種率向上のための取り組み

2022年6月1日 成人用肺炎球菌ワクチンOnlineセミナー 順天堂大学医学部 総合診療科学講座 教授 内藤 俊夫 先生 ご講演より作成

出典

  1. Fox KA, et al. Am J Surg 1995;170(6):564-566.
  2. Spain DA, et al. J Trauma 1995;39(6):1100-1102.
  3. Marik PE, et al. N Engl J Med 2001;344(9):665-671.
  4. 日本老年医学会「立場表明2012」(2012年1月28日理事会承認)
  5. Yan Y. et al, J Infect Chemother 2022;28(5):709-713.
  6. Komori A, et al. Hum Vaccin Immunother 2021;17(11):4673-4674.
  7. Naito T, et al. J Infect Chemother 2014;20(7):450-453. (利益相反:著者の中にMSDから奨学金の寄付、講演料を受けたものが含まれる)
  8. Pneumococcal Polysaccharide Vaccine (PPV) coverage report, England, April 2020 to March 2021
  9. Williams WW et al. MMWR Surveill Summ. 2017;66(11):1-28.
  10. Naito T, et al. J Infect Chemother 2020;26(4):407-410. (利益相反:著者の中にMSDから講演料を受けたものが含まれる)
  11. 日本呼吸器学会 成人市中肺炎診療ガイドライン2007年版
  12. Naito T, et al. J Infect Chemother 2020;26(7):715-721. (利益相反:著者の中にMSDから講演料を受けたものが含まれる)
  13. Maruyama T, et al. BMJ. 2010;340:c1004.

利益相反:
大石和徳は、本講演会、記事作成にあたり開示すべきCOIはない
内藤俊夫は、本講演会にあたりMSD社より謝礼の支払いを受けている


大石 まずは定期接種対象者の接種率について考えてみたいと思います。肺炎球菌ワクチンは2014年から65歳以上に対する定期接種が始まりました。厚生労働省の発表によると、定期接種の実施率は2014年から2018年までの最初の5年間は30%台を維持していましたが、2019年には13.7%に減少しました14。2019年は5年刻み接種のサイクルが2巡目に入った年であり、2014年のキャッチアップ制度によって接種された方が対象人数に含まれていたこと、2巡目の対象者の接種行動が伴っていなかったことが影響していたと推定しています。定期接種実施率がかなり低い状況とその対策について、内藤先生はどのようにお考えでしょうか。

内藤 まず、クリニックでは年に1回の健康診断しか来院しない患者さんもいらっしゃいますので、接種のタイミングが重要になると思っています(図2)。接種を促す大きなポイントの1つは、インフルエンザワクチンを接種しに来た時です。インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンは同時接種が可能ですので、その時にしっかり肺炎球菌ワクチンもお勧めいただくのが良いかと思います。

大石 そうですね。そういう意味では、肺炎球菌ワクチンはインフルエンザワクチンほど⼀般の方々に定着してない14ですよね。特に、高齢者施設などにはもう少し周知徹底が必要だろうと思いますね。

内藤 おっしゃるとおりですね。

図2 順天堂大学における肺炎球菌ワクチン接種を勧めるタイミング

肺炎球菌ワクチンを勧めるタイミング

2022年6月1日 成人用肺炎球菌ワクチンOnlineセミナー 順天堂大学医学部 総合診療科学講座 教授 内藤 俊夫 先生 ご講演より作成

大石 日本では成人用ワクチンに⼀定の費用負担が求められるとは思いますが、予防接種法の見直しや改正なども1つの手ではあるだろうと思います。ただし、その実現性は低いかもしれません。

内藤 病院では定期接種対象者から申し出があれば実施するという方が多いかもしれませんが、初診の患者さんには接種状況を確認してみるのが良いかもしれません。その他のタイミングとしては、退院する時があります。退院時の「もう二度と入院したくない」という思いが強くなった時に接種をお勧めするのが良いかと思います。医師だけではなく、看護師や薬剤師もぜひ患者さんに接種を促していただければと考えております。

大石 医療施設全体で、定期接種で通知を受けている方々をできるだけ高頻度でキャッチできる仕組みがあるといいなと思います。

内藤 そうですね。受付で「5歳刻みの年齢の人」にピンとくるという感じになるとありがたいと思います。

大石 日本のJAGESデータベースを用いた調査では、自立して生活している65歳以上のワクチン未接種者の30.6%がワクチンについて知らなかったと報告されており15、⼀般の方々に肺炎球菌ワクチンの存在自体がまだまだ認知されていないように思います。
*:日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study:JAGES)

内藤 先生方には、少しでも多くの患者に肺炎球菌ワクチン接種をお勧めいただきたいです。特に、COVID-19の影響で肺炎への意識が高まった方や、ワクチンへの抵抗感が低くなった方もいるかと思います。これを機会に、肺炎球菌ワクチンの普及にご協力お願い致します。

大石 定期接種が始まってから約9年経過し、様々なエビデンスが蓄積されています。それにもかかわらず接種率が伸び悩んでいるのは、行政側および医療従事者側から情報を十分届けられていないことが原因かと思います。引き続き、肺炎球菌ワクチン普及への努力を継続していただきたいと思います。

出典

  1. 厚生労働省 「定期の予防接種実施者数」平成6年法律改正後(実施率の推移)
    https://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/other/5.html(2022/6/9閲覧)
  2. Sato K, et al. J Epidemiol. 2021 Feb 6. doi:10.2188/jea.JE20200505

利益相反:
大石和徳は、本講演会、記事作成にあたり開示すべきCOIはない
内藤俊夫は、本講演会にあたりMSD社より謝礼の支払いを受けている